小説「光の物語」第3話 〜婚約 3〜

小説「光の物語」第3話 〜婚約 3〜

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婚約 3

「まったく、油断もすきもない!」
ばあやは部屋に戻った後もまだ怒っていた。
思いがけないキスのあと2人はばあやの金切り声で我にかえり、ディアルはばあやに追い立てられるようにしてその場を後にしたのだった。
苦笑いしながら一礼し、その場を去っていく王子の姿はまだアルメリーアの脳裏に焼き付いていた。


「あれじゃそのあたりの悪童と変わりないじゃありませんか!なんて手の早い・・・!まだ婚礼前の大事な姫様に・・・」
「ばあやったら、婚礼はもう明日なのよ」
たしなめる姫の声もばあやの耳には入らないようだ。
「そうです、婚礼は明日でございます!今日ではなく!」
「もう・・・」姫はおかしそうに首を振った。「きのうまでは、素敵な花婿だとほめちぎっていたのに」
「礼儀正しい方かと思ったからです!それに姫様に夢中なご様子でしたから、見どころがあると思ったんですよ!それなのに・・・」
これには姫も笑いをこらえることができなかった。「ええ、私の婚約者には私に夢中でいてほしいわ」
「まずは紳士でなければ、大切な姫様を安心してお任せできませんよ!」


「ばあや・・・」アルメリーアは立ち上がり、立ち歩くばあやを抱きしめた。「大好きよ」
この言葉はいつでもばあやの機嫌を直すのに効き目があったが、今回も例外ではなかった。
「姫様・・・」ばあやは自分よりも背が高くなった姫君をそっと抱きかえし、「ばあやの大切な姫様」と子供の頃からの呼び方で呼ぶのだった。


「大丈夫よ。あの方は立派なかただわ。それにきっと私を大切にしてくださるわ。そう思わなくて?」
「・・・まあ、ご公務は真面目におつとめのようですね」
「そうね。家臣や領民にも慕われておいでのようだし」
「そのようですね。それに姫様との面会にはいつも早々と来て待っておられるし」
「申し分なくエスコートしてくださるし」
「それに美男子ですしね。肖像画より実物の方がいいとは予想外でしたよ。あれなら姫様の横にならんでもそう見劣りはしますまい」


自慢そうに言うばあやにアルメリーアは笑い、心の中でそっと「それに、キスもすてきだわ」とつぶやいたのだった。