小説「光の物語」第4話 〜婚約 4〜

小説「光の物語」第4話 〜婚約 4〜

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婚約 4

「それにしても美しい姫だ」
婚礼衣装の試着をするディアルに従兄弟のマティアスが言う。
「ああ、そうだな」上着を脱ぎながらディアルは答えた。「申し分のない仕上がりだ。ありがとう」
衣装係に上着を渡し、使用人たちが下がるのを待ってディアルは言った。「彼女について何か気になることでもあるのか?」
「いやいや、これ以上ないくらいぴったりの縁組みだと思ってるよ。格式といい年頃といい申し分ないうえに、あの美しさ。我が国が誇る麗しの王子とまさに完璧な一対だ」
「気持ちの悪いことを言うなよ」ディアルは思わず吹き出した。ディアルの部屋での衣装合わせに、明日の婚儀で付き添い役を務めるマティアスは同席していたのだった。


「金の髪に緑の瞳の王女様と、黒髪に青い瞳の王子様。庭園を二人で歩くさまはまるで絵のようだったと、女官たちも言っていたぞ」
「妙な話を聞き込んでくるものだ」
「その王子様が王女様にぽうっとなって、思わずキスしてしまったともな。いくら美しいとはいえ他国の王家の人間だ。少しは用心しないと痛い目にあうぞ」
「痛い目?」少し心外そうに王子は問い返した。


「政略結婚の目的は、相手の宮廷にスパイを送り込むことだ。美しい花嫁衣装と魅力的な笑顔で飾り立ててな」
「そして国同士の友好を保つことだ。四方を囲む大国に備えて同盟するためにな」
ディアルの国ローゼンベルクとアルメリーアの国リーヴェニアはともに国土の半分を山岳に覆われた中堅国であり、その二国をかこむようにして四つの大国が広がっていた。


「もちろんそれもあるがね・・・」と言いさしてマティアスは首を振った。「いやいや、すまん。めでたい日を前にして水をさすようなことを。すべて織り込み済みで結婚するのはおまえなんだ。王子なんて、つくづく不自由な身分だよな」
「彼女と結婚するのは不本意でもなんでもないさ」
「そりゃあ、彼女がただの娘なら私だって口説きたい・・・」と言いかけたマティアスだが、ディアルに目で制されて「すまん」と口をつぐんだ。
そして「本当に惚れたんだな」と小さな声でつぶやいたのだった。