小説「光の物語」第7話 〜婚礼 3〜

小説「光の物語」第7話 〜婚礼 3〜

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婚礼 3

「いよいよ寝室で美しきスパイとご対面か」
「そんな言い方はよせ」
祝宴ののち自室に戻る王子をマティアスがからかう。
彼とは幼馴染で気心も知れているが、それだけに時には遠慮のない物言いがうっとうしくもあった。


「新妻に夢中なのも結構だが、寝首をかかれないよう用心しろよ」
「そんなことにはならないよ。それよりおまえこそさっさと身を固めたらどうだ。人の閨のことに口出しする暇があったらな」
「冗談じゃないよ。宮廷の人気を私と二分していた王子殿下が結婚して、これからは私の一人勝ちというのに。こっちはこっちでせいぜい楽しむことにするさ」
「なんだと?私と張り合ってるつもりだったのか?図々しい奴だな」


二人は一緒になって笑ったが、マティアスはつと居住まいを正すと、
「付き添いの役目はこれにて。いろいろ無礼も申しましたが、お二人の行く末の幸多からんことを心より祈っております」と述べた。
最後はきちんと締めるマティアスにディアルは笑って頷き、彼が辞去するのを見送った。



夜着に着替え、ひとりマティアスの言ったことを考える。
そしてこの結婚のために父王や大臣たちが取り沙汰していたあれやこれやを。
それが王子の務めであり、王族の結婚だとある意味割り切ってもいた。
しかし、アルメリーアを前にするとそんな冷静さはなりを潜めてしまうのもまた事実なのだった。


ディアルは今日の彼女を思った。
聖堂に現れた姿、誓いのキスのあとに覗き込んだ瞳、ダンスの時の初々しい笑顔や、抱き寄せた背中のぬくもりを。
その瞬間の震えるような感覚がよみがえり、拳を握りしめて気持ちの高ぶりを抑えた。