小説「光の物語」第12話 〜春 4〜

小説「光の物語」第12話 〜春 4〜

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旅先での日々は晴天続きだった。
丘へ遠乗りも湖畔でのピクニックも、すべてが夢のような時間だった。
何をするにも彼は彼女にペースを合わせ、気を配ってくれる。
いつでも手を差し伸べてくれる彼に彼女の思慕は増していった。


そして、彼は夜ごとに情熱的になっていった。
「きみを愛してる」
暗闇の中で毎夜繰り返される愛の言葉は、彼女の中に彼の感触と共にしみ込んでいく。
切なく息を切らし、吐息で応えるうちにいつしか空は白み、短い眠りに落ちるのが毎夜のことだった。


昼間、窓辺のソファで考え事をしている折にふとそんな夜の記憶に襲われ、アルメリーアは思わず目を閉じる。


彼の低いささやき声が耳の奥に残る。
同じ言葉を返しそうになる瞬間は数え切れないほどあった。
けれど、今はまだ言えない。
どうして言えないのか・・・それは、彼が自分に初めて愛していると告げたとき、なにかとても神聖なものを感じたからだ。
自分の中にもそれと同じものを見出せるまで、言うことはできない気がした。
だから言葉の代わりにキスや抱擁で伝えられる限りの思いを伝えていた。
ただ・・・全身に残る彼の熱に圧倒されそうになる。



ディアルは家令との打ち合わせを済ませ、部屋に戻ろうとしていた。
窓辺のソファに目を閉じて座る彼女に気づき、少し離れたところからその姿を見守った。
見つめるうち、夜の闇のなかで聞いた声や、自分にしがみついた華奢な腕、細い指の感触が甦る。


彼は何度も愛していると繰り返した。伝えるたびにもっと愛おしくなった。
彼女は愛しているとは言わない。彼もせかす気はない。
ただあらゆる方法で彼女に愛を伝え続ける。
彼女の瞳に見え隠れする思いが時を迎え、やがて花開くのを願いながら。


・・・これではまるで片思いだ。実際、十分すぎるほど睦まじい夫婦だというのに・・・。
ディアルは感傷的な自分に苦笑した。


目を開いた彼女が彼に気づき、微笑みを浮かべる。
彼も笑顔を返し、彼女のもとへと近付いた。