小説「光の物語」第20話 〜見習 1〜

小説「光の物語」第20話 〜見習 1〜

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暖炉に火を入れる季節になった。
厳しい冬の始まりだが、王城のなかは明るく華やいでいた。


その中心にいるのは若く美しい王子夫妻と、その宮廷に新しく加わった見習いの子女たちだった。


ミルツ侯爵家の娘、クリスティーネは15になったばかりだが、少しでも良い嫁ぎ先をという両親の強い願いを背負っていた。
本人もそう願っていたが、少女らしい恋への憧れも持っているらしい。


「殿下と妃殿下が私の理想ですわ。私のお相手も殿下のような方だったらどんなにいいでしょう・・・」
夢見るように語る様子は初々しさにあふれていた。


城に上がってすぐアルメリーアに熱烈な憧れを抱くようになり、暇さえあれば「妃殿下、妃殿下」とまとわりつこうとする。
その熱は宮廷に出入りする他の令嬢たちにも伝播し、さながら王子夫妻の親衛隊の様相を呈していた。


「まあ、なんとも元気のいいお嬢様がたで」
サロンのすみではしゃぐ少女たちに、ばあやが冷や汗をかきながらこぼす。
「そうね」
アルメリーアも苦笑はするものの、クリスティーネの気持ちもわかる気がした。


ほんの数年前には自分も姉たちにくっついてまわり、大人の世界の話に胸をときめかせたものだ。
年上の貴婦人たちに憧れた頃のことは今でもよく覚えている。




「妃殿下!殿下がお越しで・・・ございます」
部屋に駆け込んできた少年が、大きすぎる声とおぼつかない口上でディアルの帰城を告げた。
「ありがとう、パトリック」
騎士見習いの愛らしさにアルメリーアは思わず笑みをもらす。
シュレマー伯爵家の三男坊であるパトリックはまだ8歳、その明るさと無邪気さで皆に可愛がられていた。


「妃殿下、ぼく今日・・・」
アルメリーアに微笑みかけられてうれしくなったパトリックは、今日あった何事かを彼女に告げようとする。
「こら、従者は主人が来るまでドアの脇に立っておくものだぞ」
後から部屋に入ってきたディアルに笑いながら注意され、少年はあわてて言われたとおりにする。
軍工廠に出かけていた彼の黒いマントにはうっすらと雪が残っていた。


「降りだしましたのね」
「ああ、今年は早いな」
話しながらマントと手袋を脱ぎ、控えている使用人に渡した。


アルメリーアにキスようとするが、わくわくした様子で見ているパトリックに気付き
「彼についていきなさい。仕事のやり方を教えてくれる」と笑って告げる。
少年はがっかりしたようだが、すぐに気を取り直して使用人のあとを追いかけていった。


「かわいそうに」
少年を見送るアルメリーアを抱き寄せてキスしながらディアルが答える。
「なんとでも言ってくれ。きみの関心をあいつに奪われたらことだ」
「冗談ばかり・・・あの子を気に入ってらっしゃるくせに」
アルメリーアは笑って彼の頬に手を当てた。


「まあ、冷たい。今日はもうずっとお城に?」
「ああ。とは言っても書類仕事がいろいろあるがね・・・」


寄り添って話す彼らを、クリスティーネとその取り巻きが部屋の向こうからうっとり見ているのに気づく。
「どうしてこんなに観客が増えたんだ?」
二人は顔を見合わせて苦笑するしかなかった。