小説「光の物語」第19話 〜王城 5〜

小説「光の物語」第19話 〜王城 5〜

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アルメリーアはひとりバルコニーに出て、午後の最後の日差しを浴びる。
外の空気を吸うと、謁見の間に重くなった心が少し晴れる気がした。
眼下に広がる王城の庭を眺めるうち、ふと故郷の両親へ便りをしなければと思い出す。


両親への手紙とはいえ、いつ誰に読まれるかわからない。
窮屈だが、他国の王家に嫁ぐとはそういうことだった。


その用心のため、輿入れ前に父エルンスト王はアルメリーアにいくつか合言葉を授けた。
不測の事態を知らせるためのほんの小さなお守りとして。


それらを使わなくていい現状に安堵はするものの、先刻侍女たちとリーヴェニアのことを話したのも手伝い、故郷の思い出に恋しさが募った。
両親と、姉兄たちと、生まれ育った城に暮らす人々・・・。
西へと傾きかけた日が、もう二度と戻ることのない頃の記憶を呼び寄せる。




「リーア」
背後からの声にはっとして振り返ると、会議を終えて戻ってきたらしいディアルが窓のところに立っていた。
「謁見続きだったって?」同じ苦労を知る彼は同情まじりの笑みを浮かべている。


アルメリーアはゆっくり彼のもとへ近づくと、彼の首に腕を回して抱きしめた。
彼女の様子を案じたディアルは「リーア?」と問うが、彼女はなにも答えない。
彼は黙って彼女をそっと抱き寄せた。
彼の吐息が彼女の耳にかかる。


日の光は彼女の感傷をかき立てるのをやめ、抱き合う二人の長い影をつくる。
この数時間の感情がぬくもりの中に溶けていくのを感じながら、アルメリーアは運命が二人に優しくあることを、決して彼を失わないことを願った。