見習 2
雪の降り積もる頃になった。
しかし、王城に集う少女たちには寒さも関係ないようだ。
相変わらず友人同士で話に花を咲かせては、よく響く笑い声を上げていた。
「今日も楽しそうだこと」
サロンに入ってきたアルメリーアは少女たちの一群に笑顔で声をかけた。
「まあっ・・・妃殿下・・・」
見慣れない少女が慌ててお辞儀をする。
となりには城に上がってしばらくたつ行儀見習いのクリスティーネも一緒だった。
「あなたは・・・ベーレンス伯爵家のナターリエ嬢ね」
新顔の少女は王子妃が自分の名を知っていたことに恐縮し、消え入りそうな声で「光栄でございます、妃殿下」と答えた。
「この雪の中をご苦労でしたね」アルメリーアは前日に到着したベーレンス夫妻の顔を思い出していた。やせて厳しそうな伯爵と、太めでせわしなげな夫人。「あなたたちは以前からのお友達なの?」
「あ、はい・・・母同士も長いお付き合いで・・・」
「ナターリエさまもしばらくお城に滞在なさるんですって、妃殿下」はしゃぐクリスティーネが割って入る。
「そうなの。それは素敵なことね。でもお友達の話を遮ってはいけなくてよ。ね?」
いつも同じことを注意されるクリスティーネは照れたように笑い、アルメリーアはナターリエの緊張をほぐすように微笑みかける。
内気そうな少女はあまり話さなかったが、それでもアルメリーアの和やかな物腰に安堵したようだった。
「ベーレンス伯ご夫妻も令嬢の縁談をまとめたいご意向でしょうか」
少女たちと離れたところで侍女の一人が話しかけてくる。
「そうかもしれないわ。クリスティーネにもいくつかお話がきているようだし、来年は二人とも花嫁になるかしら」
「もっと多いかもしれませんわね。クリスティーネ様がお友達みんなに結婚熱をうつしておいでですから」
みなが一様に笑いさざめいたところへ、窓の外から何やら若者たちの歓声が聞こえてきた。
「まあ、騎士の皆様がお庭でボール遊びを。この寒い中・・・」
窓から下の様子を見た侍女が呆れ顔で首を振る。
「あら、殿下もおいでですわ」
「え?」
驚いたアルメリーアが外を覗くと、たしかにディアルが雪の中で他の若者たちとボールを取り合っている。
取ったり取られたりの攻防がしばらく続いた後、どこからか雪の投げ合いが始まり、あっという間にその場にいた全員が雪合戦を始める。
暖かい室内から見下ろす女性陣には、全身雪にまみれて大笑いする男たちは酔狂にしか見えなかった。
「あそこにパトリックもいましてよ」
侍女が言う通り、騎士見習いのパトリック少年も夢中で雪合戦に参加していた。
自分より大きな大人たちをやっつけるのが楽しくてたまらないらしい。
最後はディアルに捕まって小脇に抱えられ、笑いながら手足を振り回していた。
「楽しそうだこと・・・」
雪まみれの夫の姿に唖然とした気分でアルメリーアはつぶやく。
しかし、少年と遊ぶディアルの様子に温かいものも感じていた。