降誕祭 6
「マティアスの家はいろいろ複雑でね」
眠りに落ちる前のひと時、寝台で寄り添いながらディアルが話してくれた。
「彼の両親も家同士の取り決めで結婚したんだが、当初からいさかいが絶えず、マティアスが生まれた後も仲は険悪になる一方で・・・」
「まあ・・・」
貴族の中にはそうした夫婦が多いことも知ってはいるが、そこで育ったマティアスを思うとアルメリーアの胸は痛んだ。
「見かねた母上が、私の学友として彼をこの城に住まわせたんだ。あいつもここでの暮らしになじんでうまくやっていたが・・・彼の両親にはそれも面白くなかったらしい。十四の時に恋人との仲を裂かれてしまってね」
「仲を裂く・・・?」穏やかでない言葉に彼女は頭を起こした。
「彼の母君に仕えていた侍女と恋仲だったんだが、それを知った両親が彼女を無理やり他の男と結婚させたんだ」
思いもよらない話にアルメリーアは目を見開いた。
「そして外国へ追い払った。すべては彼の留守中に行なわれて・・・わかった時にはもうどうしようもなかった」
ディアルの声には苦々しさがにじんでいた。
「なんてこと・・・」
「彼女もこたえたのか、その後しばらくして病で亡くなってしまってね・・・それ以来、あいつは何事にも距離を置いているんだ」
胸のふさがる思いをしずめようと、アルメリーアは夫の肩に顔をうずめた。
「またお好きになれる方と出会えればいいのに・・・」
彼女の声に涙の気配を感じ、ディアルは彼女をさらに抱き寄せた。
「そうだね。私もそう願っているよ。あの頃のあいつは彼女に夢中だった。四六時中彼女の話ばかりして、見ているこちらが参るほどだったよ」
その頃を思い出し、彼の声音に懐かしさが混じる。
「でも、いまでは愛も幸せも幻想だと思い込んでしまっているようでね・・・」
友の行く末を思い、ディアルは悲しげにつぶやいた。