小説「光の物語」第34話 〜降誕祭 11〜

小説「光の物語」第34話 〜降誕祭 11〜

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降誕祭 11

「マティアス様は?」
気遣わしげに尋ねる妻をエスコートしながらディアルは答えた。
「行くところがあるんだそうだよ」
「そう・・・」
女性に人気のマティアスだから、誰かに会いにいくのだろう。立ち入るわけにもいくまいが・・・。
マティアスと夫の心中を思うと言うべきことも見つからず、ただ両手で彼の手をそっと包んだ。


ディアルはふいに立ち止まり、彼女を抱き寄せて唇を重ねた。
城に続く回廊に人はおらず、間隔を置いて燃える篝火だけがあたりを照らしていた。
柱の間から雪が舞い込み、石畳の上に落ちては消えていく。


「愛してる」
彼の囁きに、息を切らした彼女が瞳を開く。その緑の瞳は初めて会った時と同じように彼の胸を締めつけた。
「私も愛してる・・・」
囁き返す彼女をしっかりと抱きしめた。


「もしきみを誰かに奪われたら・・・私は正気ではいないだろう。奪った奴を破滅させるまで絶対に許さない」ディアルは切迫した声で告げる。
「ディアル様・・・」夫の激しい一面を初めて目の当たりにし、アルメリーアは息をのんだ。
だが、マティアスは・・・とディアルは思う。
友の恋人を奪ったのは友の両親なのだ。
無念を晴らす術のないマティアスを思うと苦しくなり、つのる愛と激情のままにキスを続けた。


気がつくと、彼女はほとんど倒れそうになっていた・・・唇を離してそっと抱き寄せる。
互いの吐息と鼓動が少しずつ鎮まってくるのを感じながら、ディアルは強くなってきた雪をぼんやりと見つめた。
彼女がいなければこんな夜はどれほど苦しかったろうと彼は思う。
愛する人のぬくもりといたわりを感じられるのはなんと大きな救いだろうと。


「・・・きみはどう思うかな」彼女の耳元で低く囁く。
「・・・なにを・・・?」
ほとんど夢心地で返す彼女に、彼はかすれた声で言った。
「もしかしたらきみはすでに身籠っているかもしれないけど、そうでないとしても・・・今夜そうなるかも」
思いがけない言葉にアルメリーアは真っ赤になった。「なにを言い出すの・・・」
「違うんだ、変な意味じゃなくて・・・まいったな」自分の言葉の生々しさにディアルも思わず笑う。


「・・・きみに私の子供の母親になってほしい。最近そのことをよく考える。きみが・・・見習いの子たちに接する姿を見ていて」
その言葉に彼女の瞳が小さく揺れた。
「元気な男の子もほしいし、きみにそっくりな女の子もほしい。きっとものすごく可愛いぞ」
彼女のあごの線に指を這わせて瞳をのぞき込むと、彼女も恥ずかしそうに笑った。
「今夜は神様も叶えてくれそうな気がするんだが・・・どう思う?」


こんな誘惑があるだなんて・・・彼女は言葉もなく目を閉じ、彼の胸に顔をうずめた。
ディアルも彼女の反応に胸がいっぱいになり、ぎゅっと抱きしめて尋ねる。
「賛成してくれる?」
彼女は顔を上げて彼のあごにそっと唇をつけた。
「賛成しないわけがないわ・・・今日はたしかに望むのにふさわしい日ですもの。それに・・・」
「それに?」彼は顔を下げて彼女のキスを受けた。優しい唇が顔中に触れていく。


「それに・・・私も同じことを望んでいますもの。たぶん、初めてあなたに会った時から・・・」
彼女にそう耳元で囁かれ、彼は目を閉じて幸福感をかみしめた。
「愛してる」瞼が熱くなったのを感じながら小さく呟く。
「ええ・・・」彼女は彼の髪をそっと撫でながら答える。
彼はしばらく無言で彼女の指の動きを感じていたが、やがてそっと顔を上げて言った。
「部屋に戻ろう・・・」


彼は妻の手を握り、暗い回廊を歩き出した。
最初ゆっくりだった歩調はだんだん早くなり、階段に差しかかる頃には小走りになっていた。
二人は小さく笑いながら階段を駆け上がり、彼らの部屋に戻ってドアを閉めた。
雪も、寒さも、やるせなさも、そこには入り込めなかった。