小説「光の物語」第38話 〜新年4〜

小説「光の物語」第38話 〜新年4〜

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新年 4

「新たな道を作るのと並行して、他国からの侵略にも備える」


重臣たちと軍の部隊長たちを交えた御前会議の席で、ディアルは計画の全容を説明する。
「国境沿いに爆破地点を設け、侵略軍が侵入した際には道路や橋を破壊して進軍を食い止める。国境地帯より深くに進軍させないことがまずは重要だが、進まれた場合も対処できるよう爆破地点は可能な限り多くする」


ディアルは国全体の地図を示しながら続ける。国境から内側へと入られるほど主要都市が危うくなる、その事実を視覚的に知らせるためだった。


「爆破地点を多数設けるため、砲兵隊を少人数の部隊に再編成して各部隊に合流させる。詳しいことはのちほどノイラート隊長より説明がある」
出席者の中にははじめてこの計画を聞くものも多く、会議室の中は驚きと困惑でざわついた。


ディアルは皆を見渡して続ける。
「新たな道路の建設は我が国の産業促進にも役立とう。土地整備の過程で岩を取り除き、草を育てて酪農に適した土地に変える。また、商業や巡礼の道として外貨獲得も期待できる」
稀有壮大な話に諸侯たちは言葉を失った。


「爆破地点の候補はこのように」
マティアスが候補地をしるした地図を皆の前に広げた。
「昨年小競り合いのあったヴェルーニャと、最近とみに政情不安が噂されるブルゲンフェルトとの国境沿いからまずは始めます。ヴェルーニャ方面には要塞都市エルガが守りの要としてありますゆえ、ここに近付けないルートを設定しました。ブルゲンフェルト方面についても考え方は同様に」
居並ぶ大臣たちは地図に見入ったが、内心では変化とそれにともなう負担に反発するものも多く、何人かは大っぴらにそれを口にした。


「これらの工事は公共事業とする。外国での傭兵務めを終えて帰国した者や、職にあぶれているもの達に仕事を与えられよう。これまで我が国は傭兵を輸出することで外貨を貯えてきたが、そのやり方を変えるこれは第一歩だ。」


ディアルの発言に諸侯らは静まりかえる。若者が傭兵となり他国で命を落とすことは、国全体が長きにわたり憂慮してきたことでもあった。


「人流を増やし、産業を育成し、侵略に備える。これが我々の向かう方向だ。たやすい道のりではないだろうが、先々の世代のために土台を作ろうではないか」
「ははっ!」
王子の言葉に一同は賛意の声で答えた。