小説「光の物語」第40話 〜新年6〜

小説「光の物語」第40話 〜新年6〜

スポンサーリンク

新年 6

「ナターリエ、何をしているの!あなたという人はほんとうに・・・」
サロンへ移動しながら娘を叱りつけるベーレンス夫人の金切り声は、その場に居合わせたすべての人を驚かせ、そしてうんざりさせた。
「はい・・・」
大人しい気性のナターリエは母親の明らかに理不尽な言動にも逆らわない。いや、逆らえないように育てられたのか・・・。
その様子がまた、周りを一層いたたまれなくさせる。


「ベーレンス夫人、ごきげんよう」


その声にきっと振り返った婦人は、声の主を認めてあわてて頭を低くした。
自分に声をかけてきたのが宮廷の女主人である王子妃とあっては、さすがに醜態をさらすわけにもいかない。


「良いお天気ね。最近はお元気でお過ごしかしら?」
「は、はい・・・妃殿下にもご機嫌麗しく」
美しく気品にあふれる王子妃を前に、夫人は先程とは打って変わって小さく縮こまっている。
娘への態度に多少の後ろめたさはあるのか、それともみっともない姿を見られた気まずさか・・・。


「いいところでお会いできたわ。ナターリエ嬢をサロンでのお茶にお誘いしたいと思っていましたのよ。よろしいでしょう?」
「娘を?で、でも・・・」
「ナターリエ嬢はとてもお優しくて賢いお嬢様ですもの。見習いの子たちにも親切にしてくださって、王子殿下も嬉しく思っておいでですのよ」
「そ、それは・・・かたじけないことでございます」


アルメリーアはにっこりと笑い、夫人の横で堅くなっているナターリエに「ナターリエ嬢、本にお詳しいのですって?お話を聞かせてくださらない?」
と声をかけた。
ナターリエは小さくかしこまっていたが、促されるままサロンに向けて歩き出した。