胎動 6
自室で着替えを済ませたアルメリーアは、長椅子に座って一人考え込んでいた。
もともとは、読書が好きなナターリエを今度王立修道院に誘ってみようかと思ったのだ。
あの落ち着いた環境でなら、内気なナターリエも安らげるのではないかと。
しかし・・・クリスティーネから聞いた新たな情報が彼女を戸惑わせていた。
ナターリエに恋人?どうもしっくりこない。
本当だとして、ナターリエの母はちゃんと娘を見守っているのだろうか?
あまり期待はできなさそうだが・・・。
「姫様、どうなさいました?」
いつの間にか部屋に入ってきていたばあやが声をかける。
周りに人がいなければ、ばあやは今でも彼女を姫様と呼ぶのだった。
「難しいお顔をなさって・・・なにかお悩み事でも?」
「いいえ・・・ただ・・・」
言いかけて、彼女はふっと隣に座るばあやの肩に頭をもたせかけた。
「私にはばあやがいてくれたものね・・・いつだって私の味方・・・たとえお母様がどうであろうとも」
「まあ・・・姫様」
手塩に掛けた姫に久しぶりに甘えられ、ばあやは感激するやら心配するやらだった。
「姫様は世界一すばらしい淑女なのですからね。ふさわしい扱いを受けていただかなくては」
そうして大切な姫君の背を優しく撫でた。
「皆がばあやのような人を持てればいいのにね・・・手放しで自分を可愛がってくれる人を」
幼稚な母親に振り回されて苦しむナターリエの姿が浮かぶ。
「お母様を諦められなかったら、私もあの子のようになっていたのかしら・・・」
アルメリーアが誰のことを話しているかは、ばあやにも察しがついた。
「お可哀想なことでございますね・・・」と呟きつつ、アルメリーアの背を撫で続けた。