小説「光の物語」第35話 〜新年 1〜

小説「光の物語」第35話 〜新年 1〜

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新年 1

新しい年になり、社交真っ盛りだった王城の雰囲気も平時のものに戻りつつあった。
各地から任務を負った諸侯が上洛し、城は新たな国づくりにむけて活気づいていた。
わけても交通と国防の計画は重要であり、そのための会議が続いていた。


「この計画には爆薬の扱いに長けたものが多く必要です」
マティアスは国王とディアルの前で改めて説明した。
「では砲兵隊ということになるか。いまの隊長はたしか・・・」
国王がディアルに尋ねる。
「ノイラート家のフランツです。昨年勇退したエクスラーの後任で。近々王城に参る予定になっております」
「よろしい。砲兵隊を再編成し、知識を他の隊と共有する必要があるな。他には?」
「国境警備隊に工事について周知する必要があります。情勢の危うい地域から始めることになりますが・・・」
話すべき議題は多く、会議は長時間に及んだ。




「ナターリエ、いつまで待たせるの」
ベーレンス伯爵夫人の苛々した金切り声が廊下に響き渡る。
「はい・・・」
呼びつけられたナターリエはあわてて部屋から出てきた。
「まったくあなたときたら・・・せっかく王城に滞在しているというのに、お相手も見つけずに本ばかり読んで・・・」
歩きながらも夫人の小言が止む気配はない。まわりを行き交う人々の視線にも気付くゆとりはないようだ。
「せっかく舞踏会に顔を出してもろくに話もしないで。なんのためにここにいるかわかっているの?」
「はい、お母様・・・」ナターリエは消え入りそうな声で返事をした。




「・・・なんだか悲しくなってしまうわね」
女官からその様子を聞いたアルメリーアはため息をついた。
「本当に。ナターリエ様はお優しくて内気な方ですから・・・婿君探しをするより、本を読んだり小さな子のお相手をする方が性に合われるようで」
「ええ、そうね。パトリックにも字を教えてくれて・・・親切な方だわ」
従者見習いのパトリック少年は、故郷の母に手紙を書くために字の練習を続けていた。


「ナターリエ嬢のご気性に合う方と出逢われるといいのだけれど・・・ご縁談は進んでいないのかしら?」
「ご両親も幾人かの方を紹介されたようですが・・・ナターリエ様はすっかりはにかんでしまわれて、ろくにお話もできぬご様子らしくて」
「そうなの・・・」
そうした状態ならば、母親にがみがみ言われるなど逆効果であろうにとアルメリーアは思った。


「でも・・・行儀見習いのクリスティーネ様はどうやら良縁に出逢われたようですわね」
その話題にアルメリーアの顔にも微笑が浮かぶ。「そのようね」
社交シーズンの間にクリスティーネはラッツィンガー家の子息と恋に落ち、地に足がつかぬ様子で毎日を過ごしていた。
「クリスティーネに紹介されて少し話したけれど、とても良い方のようだわ」照れながらも誇らしげな二人の様子を思い返す。


「両家の話し合いがすめば、陛下のお許しもいただけましょう。クリスティーネ様は今年中に花嫁になられますわね、きっと」
「そうなるといいわね。楽しみだわ」
答えながらも、同じ時期に同じ場所にいる少女二人の違いにアルメリーアは割り切れないものをおぼえた。