小説「光の物語」第45話 〜胎動4〜

小説「光の物語」第45話 〜胎動4〜

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胎動 4

「今日のきみは一段ときれいだ」
自室へと歩きながら、ディアルは公務のために盛装した妻を優しく見つめる。
夫からの賛辞にアルメリーアは微笑み、彼の頬に唇を寄せた。


「クリスティーネ様、ほら、妃殿下がお帰りですわ」
その声が二人の耳に入り、キスの動きは途中で止まる。
廊下の片隅には貴族の令嬢達がたむろし、行儀見習いの少女クリスティーネを気遣わしげに取り囲んでいた。
当のクリスティーネは友人の一人に肩を抱かれ、泣きべそをかいている。


「まあ、クリスティーネ・・・どうしたの?」
アルメリーアの姿を認めたクリスティーネは「妃殿下・・・」と声を絞り出し、わっと泣き出して抱き付いてきた。


「リヒャルトったらひどいんです・・・私、もうあんな人と結婚なんて・・・」
リヒャルトというのはクリスティーネの恋人で、結婚に向けて二人の家は話し合いの最中である。
リヒャルトの家はもともと外国から移住してきた家系のため、クリスティーネの家とは慣習の違いも大きいらしい。
以前からその話は聞いてはいたが・・・。


「どうしたの、彼と喧嘩でもしたの?」
目を丸くしながらもアルメリーアは少女の背を撫でる。
「ク、クリスティーネ様ったら・・・」
周りの少女たちは、王子妃に縋り付く友人の振る舞いに驚きを隠せない。
しかも王子の前で・・・と、完全に慌てていた。


アルメリーアはクリスティーネを預かっている立場であるし、彼女に好感も抱いている。
話を聞いてやりたいが・・・と思いつつ夫を見ると、彼は笑って肩をすくめた。
彼としては妻を自室に送った後しばらくいちゃつこうと思っていたのだが、この状況では果たせそうにない。
その残念さをその目は伝えていた。


「話を聞いてやるといい。この部屋が空いてるから・・・」
ディアルは手近な小部屋の扉を開け、泣いている少女と妻を導いた。