小説「光の物語」第48話 〜胎動 7〜

小説「光の物語」第48話 〜胎動 7〜

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胎動 7

「ブルゲンフェルトに嫁いだミーネからの便りだ」
雪も解けたある日、ディアルは執務室で一通の手紙をマティアスに示す。
ミーネとは数年前に隣国に嫁いだディアルとマティアスの従姉妹だった。
「あの国からはこのところいい噂を聞かなかったが・・・」
彼女からの手紙には、ブルゲンフェルト王の弟に謀反の疑いがあり、その影響で幾人かの有力貴族が捕らえられたと記されていた。


「あの国は昔から王家の争いが絶えないからな・・・ミーネは大丈夫なのか?」
案じたマティアスが尋ねる。
ミーネは彼らと歳の近い従姉妹で、子供の頃は良い遊び相手だった。
「今はまだお家騒動の範疇のようだ」
「ミーネの夫は国王の甥だったな。場合によっては彼女の身も危うくなるやもしれんぞ」
「彼女の夫のアンゼルム公は、ごく穏やかな人物らしいが」
従姉妹の身は案じられるが、下手な動きは藪蛇になりかねない。


「風向きはすぐに変わる。ある日突然、国王が怪しいものは根絶やしにしろと命じるかもしれん。そうしたらどんな善人だろうと一巻の終わりだ」
「おまえらしい意見だな」ディアルはふっと笑った。「しかし、確かにそれも一理ある・・・」
そう言ったきりディアルは考え込んでしまった。


マティアスはまた別のことを考えていた。
ミーネがこうしてブルゲンフェルトの内情を書き送ってくるように、アルメリーアもこの国のことを故郷のリーヴェニアに知らせているのだろうか。
万が一ローゼンベルクとリーヴェニアが争うことになったら・・・その時彼女はどうするのだろう。


「他国のことはどうにもできん。我が国は我が国のやるべきことをやるだけだ」
ディアルの言葉にマティアスははっと我にかえる。
「ブルゲンフェルトの政情不安をこちらに飛び火させぬよう、国境警備隊によく伝えてくれ。すでに出発した砲兵隊や作業員にも気を配れとな」
「わかった」
「ミーネのことは、いまはまだ様子見だな・・・亡命は最後の手段だが、必要なら危害が及ぶ前に」
そうして、聞こえないほどの低い声でつぶやいた。
「他国へ嫁ぐとは、容易ならぬことだ」


その言葉がミーネのことだけを指すのではないことはマティアスにも察しがついた。
ディアルの心中を思うとさすがに皮肉を言う気にもなれず、ただ小さく頷いた。