番外編 雪の宵

番外編 雪の宵

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雪の宵

「初めて会った時から私の子供が欲しかったって?」
何度か愛し合ったあと、アルメリーアの肩を撫でながらディアルは尋ねる。
目を開けると、彼女を抱き寄せた彼は何やらにやにやしていた。
「どうかな、ちょっと怖いよ。きみとの付き合いを考え直そうかな?」
彼女は彼の脇腹をぎゅっとつねった。
「痛っ」
彼は笑いながら彼女を組み敷いた。
「ごめん、嘘だよ」
彼女の両手の指に指をからめる。
「嘘だよ・・・こんなに嬉しいことはない」


「たぶん、と言ったでしょう?もしかしたら勘違いだったかも」
彼女は自分を見下ろす彼に怒った顔をしてみせた。
「だめだよ、気を変えないで」
彼女の首筋に顔をうずめる。
「それに実を言うとね、私は生まれる前からきみと結婚したかった」
無茶な話に彼女は笑い出した。
「本当だよ。絶対そうするって決めてたんだ」
わかりやすいご機嫌取りを言いながら彼も笑う。
「嘘ばっかり」
「本当だよ・・・」


彼の満足しきった眠たげな瞳。きっと自分も同じような目をしているのだろう。快楽の余韻を体に残し、互いの肌のぬくもりに陶然として。
「美しいアルメリーア」
肘をついて彼女の髪を枕の上に広げる。
「きみは美しい。姿だけでなく中身も」
頬に当てられた手の感触に彼女は目を閉じた。
「どんな宝石よりも美しい・・・夢よりも」
その言葉にアルメリーアは小さく微笑んだ。
「それは私の名前と同じだわ」
「ん?」
意味を図りかねて彼が尋ねる。
「父がリーヴェニアの古語から名づけてくれたのです・・・アルメリーアは『夢よりも美しい』という意味だと」
「そうなのか」
彼もやわらかく微笑んだ。
「美しい名だ」
そうして彼女の唇に口づける。


長い長いキスのあと、胸に載せられたディアルの頭を彼女はそっと抱いた。窓の外で降りつづく雪にぼんやりと目をやる。
「雪が・・・」
「うん?」
「強くなってきましたわ」小さな子供にするように夫の髪を撫でた。
「そうか」
気持ちよさそうに小さく身じろぎする。
「雪に埋もれて何もかも止まればいい。そしたらずっとこうしていられる」
彼女以外には言わない甘えを彼は口にした。


腕の中に彼を抱きしめ、その吐息を肌に感じながら、この雪の宵に閉じ込められたいと彼女も思った。