小説「光の物語」第61話 〜悲報 1〜

小説「光の物語」第61話 〜悲報 1〜

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悲報 1

数日後に届いた知らせは悲惨なものだった。
王城を抜け出したベーレンス夫人は領地の城に戻り、夫のベーレンス伯爵とその愛人、そして愛人が産んだばかりの息子を、毒を塗った短剣で殺した。
そして夫人自身も、夫と揉み合ううちに自分の短剣で自分を傷つけ、毒が回って亡くなった。
夫婦は互いに呪いながら絶命した。
伯爵は死に際の夫人に「化け物め、おまえを迎える地獄が気の毒だよ」と言い放ったということだった。

 

夫人の部屋に残されていた手紙には、愛人の懐妊を知った伯爵が急いで領地に戻り、彼女を城に連れ込んでかいがいしく世話を焼いたとあった。
そして男の子が産まれたことに狂喜したと。
その子を後継にするために、長年不仲で持参金の問題も抱えていた夫人との婚姻無効の申し立てをしたと書かれていた。
差出人の名はなく、彼女の不幸を喜ぶ何者かの密告と思われた。
あるいは愛人自身だったのかもしれない。

 

「・・・信じがたいことが起こったものだ」
ディアルもさすがに言葉もなく、ため息をついて頭を振るばかりだった。
「なんということかしら・・・本当になんという・・・」
アルメリーアは事件の凄惨さに打ちひしがれんばかりだった。
「あんまりだわ・・・かわいそうに。罪のない赤ん坊までが・・・」
ディアルは彼女を抱いて慰めた。
妻の心労が気がかりではあったが、今は何を言っても空しいこともわかっていた。

 

「いったいナターリエ嬢にどう伝えればいいのか・・・」
アルメリーアは途方に暮れる思いだった。
「王立修道院にいたのが幸いしたな。あそこなら余計な噂話など耳に入るまい。彼女のことはアーベルのばあやが世話してくれるからなんの心配もいらない・・・」
「でも、いつかは知らせないわけにはいかないわ。それに、彼女の恋人の悪評も・・・」
「それもあったな」ディアルは参ったというように髪をかき上げた。
一連の騒ぎのなかで、ナターリエの恋のことは夫にも話していた。

 

「伯爵家の事件のことは我々から彼女に話すことにしよう。彼女はたった一人の相続人だから、女伯爵となって夫を迎える必要が出てくる。そのことを知らせないとな」
「ええ・・・」

 

「彼女の恋人のことは・・・果たして話したものかどうか」
アルメリーアもそれは迷うところだった。「両親のことを知ったら、彼女は恋人と結婚したいと思うかも。でも・・・」
「従者と結婚はできまい。貴賤結婚で相続権すら失うことになる」
「彼女はそれでもいいと思うかもしれないわ」
「ところが男の方は、ただの彼女に用はないというわけだ」ディアルはため息をついた。「まったく」
アルメリーアも顔を曇らせた。身分違いでも、せめて純粋に彼女を思う相手であったなら・・・。
その後のさらなる女官たちの調べで、ゲオルグは今回の滞在でも数人の女性と接触を持ったことがわかっていた。

 

「この件は私から話しますわ。あと、マティアス様にも少し手伝っていただければ・・・。事情も、あの従者のこともよくご存知ですから」
「わかった」彼女の手を取って唇をつける。「だが、くれぐれも無理をしないようにしてくれ。きみが落ち込むのは見ていられないよ」
「ええ・・・」

 

彼のいたわりに慰められつつ、彼女は握り合った夫の手をそっと頬に当てた。