小説「光の物語」第67話 〜新天地 1〜

小説「光の物語」第67話 〜新天地 1〜

スポンサーリンク

新天地 1

あるじを失ったベーレンス家の領地は、ひとまず王家の直轄となった。
いずれはナターリエが結婚して後を継ぐことになるが、それまでの間は代理で運営するものが必要だ。
領主不在が続けば権利を主張するものが出てきて騒動のもとになる。
またベーレンス家の領地は隣国ブルゲンフェルトとの国境にほど近く、乱れたすきをついて野心など起こされては厄介だった。

 

「マティアスよ、おまえに任せる」
国王グスタフは任命書を渡しながらそう言った。
「困難な仕事だが、おまえならやれるだろう。よろしく頼むぞ」
マティアスは任命書を受け取り、胸に当てて頭を下げた。
「王のご期待に沿うよう努力いたします」

 

「ディアルは嘆くだろうがな。おまえがいないとさぞ仕事もやりにくかろう」
「父上、それがおわかりなのなら・・・」ディアルが横から声を上げる。
「この件を大ごとにしたくない。我々と気心の知れているものに任せたいのだ。この仕事をこなせる器量と、ふさわしい身分を兼ね備えた者に」
王族には他にも騎士はいるが、すべての条件を満たすのはマティアスしかいなかった。
「いいこともあるぞ。ベーレンス領はブルゲンフェルト国境にも近い。あの厄介な隣国の情勢も掴みやすかろう」
「国境沿いの道路整備の進捗状況もです」マティアスが付け加える。
「おお、そうだな。どうだディアルよ。従兄弟の任務はおまえの助けにもなるとは思わぬか」
父王の言葉はいちいちもっともだが、ディアルは面白くなさそうな顔のままだった。

 

 

「・・・それで、ご機嫌斜めなの?」
ディアルが訪ねた温室でアルメリーアが聞いた。
「私は別に機嫌など・・・」
「うそ、さっきからむっつりしたお顔のまま」
彼女は笑いながらディアルの頬を優しくつまんだ。
「マティアス様ならきっとご適任ですわ。お人柄も良いし、いろいろなことに精通しておいでですもの」
「調査はあいつの専門だからな」
ディアルは仕方なく苦笑いを浮かべ、頬に当てられた彼女の手を手で包んだ。

 

「すぐに出立なさるのかしら?」
「準備が整い次第な。その前に王立修道院へも行くはずだ。管理者就任のことで、ナターリエ嬢に挨拶をしにね」
「ナターリエ・・・」その名を聞くたび彼女の胸は小さく痛む。「あの子の故郷ですものね」
「ほら、またそんな顔をする」彼女の肩を抱き寄せる。「ナターリエ嬢は大丈夫だよ。アーベルのばあやがついてくれている。頼りになる人だ」
「そうね・・・少しずつ力を取り戻してくれれば・・・」
「きっとそうなるよ」彼女の頭のてっぺんにキスする。「さ、そこに咲いてる花の名前を教えてくれ」

 

花に興味がないにもかかわらずそう尋ねるディアルの手を、アルメリーアはそっと握った。