小説「光の物語」第69話 〜新天地 3〜

小説「光の物語」第69話 〜新天地 3〜

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新天地 3

シエーヌに到着したマティアスはさっそくベーレンス領の現状をつかみにかかる。
彼の身分と魅力はそれに大いに貢献した。
女性陣はすぐに彼を気に入ってくれたし、ベーレンス家の親族や家臣たちもマティアスには礼を尽くさざるを得なかった。
王家の管理が入るのは疎ましいが、彼らにとってはベーレンス家の所領が安堵されただけでも儲け物だったのだ。
それだけ今回の出来事は衝撃的だった。

 

ベーレンス伯爵夫妻の事件はできる限り内々に処理したが、召使いの中には事件を目撃したものもいる。
彼らをいたわり、悪い噂が周囲に・・・わけても隣国に届かないようにするのも大事なことだった。
隣国ブルゲンフェルトはつねに領土拡大を狙う野心的な国であり、いかなる火種も遠ざけておくにしくはない。

 

同伴した専門家たちとともに、領地運営の書類にも目を通す。
ベーレンス伯爵は律儀なたちだったらしく、財務官も驚くほどの詳細さで記録をつけていた。
この妥協のない性質が仇となり、事件の発端となった行動を起こさせたのかもしれない。
そう思うと哀れを覚えた。

 

忙しい日々はあっという間に過ぎて行く。
体の疲れは休めば回復するが、今回のような任務には気疲れのほうを大きく感じた。
人に仕事を任せ、成果をまとめて大きなものにしていくのはディアルの領分だ。
マティアスは自由に動いて調査をする方が性にあっている。
不運に見舞われた家を立て直すのは手応えのある仕事ではあるが・・・。

 

そんなある夜、部屋で書き物をしていたマティアスの足元に器量よしの白猫が現れた。
大人になったばかりという風情で、マティアスをじっと見る目は青く、首には紫色の首輪を巻いている。

 

「おまえか」
マティアスはナターリエの話を思い出した。
「首輪の贈り主を覚えてるか?彼女はいま王都にいるんだ。おまえのことを恋しがっていたぞ」
猫は甘えるような声で鳴いた。
「そうやって餌をもらっていたんだな」マティアスは笑う。

 

仕事に戻ると、しばらくして猫が机の端に飛び乗ってきた。
とくに邪魔でもないのでそのままにしておく。
作業の合間にちらりと見ると、猫も尻尾を揺らしながらこちらを観察していた。
「ねずみでも捕ってきたらどうだ?」と話しかけると、猫は再び甘え声で鳴いた。