小説「光の物語」第82話 〜晴明 1〜

小説「光の物語」第82話 〜晴明 1〜

スポンサーリンク

晴明 1

「ナターリエが明日のクリスティーネの婚礼に出席するそうよ」
アーベルからの手紙を読み始めたアルメリーアは声をはずませ、聞いたディアルも「それは何より」と微笑んだ。
「本当によかったわ・・・外に出る気になったのね」手紙に目を通しながらしみじみ口にする。
「少しずつ立ち直ってきているということかな」
「きっとそうね・・・あら」


妻があげた意外そうな声にディアルは「どうした?」と問う。
「明日はマティアス様がナターリエをエスコートしてくださるんですって。アーベルのばあやがそう依頼したと・・・」
アルメリーアもディアルにならってアーベルをそう呼んでいた。
「マティアスが?へえ・・・」
「何かマティアス様から聞いてらして?」
「いや、何も」
それ自体は別に不思議でもない。きっとあれこれ聞かれるのが嫌だったのだろう。
しかしマティアスが誰かの婚礼に出るの自体が珍しいことだ。ディアルの付き添い人を務めたのは例外としても、いつもその手の場はできるだけ避けているのに。


「でもよかったわ。マティアス様がご一緒ならナターリエも心強いでしょう。それにきっと楽しいわ」
「そうだね。マティアスの結婚嫌いが彼女に影響しないかが心配だが」ディアルは笑う。「ナターリエ嬢には相応の相手と結婚する必要があるからね。どんな男なら彼女に合うだろう?」


「そうね・・・」アルメリーアは考える。「まずは優しくて思いやりのある方でないと・・・誠実で」
心優しく、しかも散々な失恋を経験したナターリエにはそうした人物と結ばれてほしかった。
「たしかに」
「それから、文学が好きな方だといいのかしら?」
「彼女は読書家らしいからね。手紙を書くのも好きそうだし」
ナターリエとパトリック少年の文通を思い出してディアルも頷く。
「あとは・・・」ナターリエが恋のために一人で遠い国境地帯まで行こうとしたことを思い出した。「意外に情熱的な方がいいのかも・・・?」
「だんだん難しくなってきたな」ディアルは笑い出した。「誠実かつ文学的かつ情熱的か」
「しかも、女伯爵にふさわしい身分の方」アルメリーアも笑う。
「頭痛がしてきたよ」ディアルは妻の肩を抱いた。「外野があれこれ言っても仕方ないな。でもまあ、良さそうな者がいたら彼女に引き合わせてみよう」
「ええ、そうね」
アルメリーアは彼の胸に身を寄せた。


「明日はいい天気になるといいね。我々の婚礼の時のように」
彼女の額をそっと撫でながらディアルが言う。
その言葉にアルメリーアはにっこりと笑い、夫の首に抱きついた。