小説「光の物語」第85話 〜晴明 4〜

小説「光の物語」第85話 〜晴明 4〜

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晴明 4

「妃殿下、ナターリエ様」
夫となったリヒャルトとともにクリスティーネが話しかけてきた。
「二人ともおめでとう。素晴らしい式だったわね」
アルメリーアがあらためて二人を祝う。
「ありがとうございます。何もかも妃殿下のおかげですわ。それにナターリエ様が来てくださって本当にうれしい」
屈託のないクリスティーネにナターリエは祝福とともに羨望を覚えた。
ありのままで愛される可愛らしい人。自分も彼女のようなら良かったのに。


「幸せな二人の登場だね。今日は本当におめでとう」
ちょうどその場に戻ってきたマティアスとディアルも祝いを述べる。
「ありがとうございます。皆様にご参列いただけるとは光栄の至りです」
リヒャルトがかしこまって挨拶した。
「クリスティーネ嬢はアルメリーアにとって妹同然だからね。泣かせないようにしたまえ」
からかうディアルにリヒャルトは焦り、皆は笑いに包まれた。


「殿下」
何事かをディアルに知らせに来た少年が、戻ろうとしてふと足を止める。「・・・ナターリエ様?」
「まあ・・・パトリック?」
少しの間に背が伸びた彼にナターリエは目を見張る。
「やっぱりそうだ。お元気でしたか?今までどうして・・・」
彼は嬉しさのあまり矢継ぎ早に質問を繰り出しはじめた。
「いろいろあって・・・やっと少し落ち着いたところなの。あなたも元気そう。お母様は?」
「はい。母も元気です。手紙のやりとりも続けていますし・・・」どこかから彼を呼ぶ声がし、パトリックは小さく頭を下げた。「行かなきゃ。またお手紙書きます」
足早に去る少年をナターリエは感慨深く見送った。


「あの子も随分落ち着いたでしょう?」
アルメリーアも微笑ましげに見守る。
「ええ・・・驚きましたわ。いつも大声でしたのに・・・あれも可愛かったですけど」
「本当ね。耳は痛かったけれど」アルメリーアも笑って同意した。


ちょうど楽団が音楽を奏で始め、クリスティーネとリヒャルトは夫婦として初めてのダンスを踊り始める。
しばらく二人を見守っていた人々も少しずつ輪に加わり、ディアルもアルメリーアをともなって踊りに行った。


「踊りましょうか」
マティアスの言葉にナターリエは少しためらいを覚える。ダンスはいつも緊張するばかりで、楽しめたことはなかったから。
けれども・・・彼となら違うかもしれない。
ナターリエは差し出された手に手を預け、彼と共に踊り始めた。