小説「光の物語」第90話 〜深雪 3 〜

小説「光の物語」第90話 〜深雪 3 〜

スポンサーリンク

深雪 3

暖冬になるかと思われたが、ひとたび雪がくると今度は降り続いた。
シエーヌの城に戻ったマティアスは連日の大雪に降りこめられた。
ナターリエの言っていた通り、この地の冬は厳しい。


そんな中でも陳情を聞いたり税収の報告を受けたりと、やるべきことはいくらでもある。
人に会う用事を終えた後も、自室で領地管理の書類に目を通す。
しばらくして疲れを覚え、机の上に広がった書類をふと眺めた。


あの白猫がいた頃は、こんな時よく部屋に入ってきた。
机に飛び乗り、仕事をする彼をじっと眺めていたものだ。
いまの名はオスカーか・・・マティアスはひとり思い出し笑いする。
きっと修道院でもわがまま放題しているのだろうな。


立ち上がって暖炉に手をかざし、冷えた指先を温めた。
オスカーの不在は意外に大きな物足りなさを感じさせる。
仕事中にあの猫がふらりと現れるのはなんとも愉快だった。
しかし、今頃はナターリエが文字通り猫可愛がりしていることだろう。
彼女が笑顔でオスカーといるところを想像してマティアスは微笑んだ。


ナターリエはどんなふうに過ごしているのだろう。
王都もいまごろはきっと雪だ。
空を見上げて生まれ育ったこの城を思い出しているだろうか。
時にはまだ過去を思って涙することもあるのか。
自分の腕の中で泣いていた彼女の華奢な感触がよみがえる。


冬は社交の季節。
彼女も少しずつ王城に顔を出しているかもしれない。
サロンでの音楽会や夜会に出席し、そこで誰かと出会って・・・。
マティアスは唇を引き結んだ。


もちろんそれでいい。
彼女は夫を選ばねばならず、自分はそれを後押しする立場だ。
だがそれとはなんら関係なく、彼女にここの状況について手紙を書かねば。
自分はシエーヌの管理者であり、彼女は領主なのだから。

マティアスは机に戻り、紙とペンを取りあげた。