小説「光の物語」第103話 〜手紙 1 〜

小説「光の物語」第103話 〜手紙 1 〜

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手紙 1

新年のさまざまな行事も落ち着いた頃、ナターリエはマティアスからの手紙を受け取った。
すこし久しぶりの彼からの手紙に彼女は胸を弾ませる。
部屋に戻ってそっと封を開けると見慣れた男らしい文字が目に入ってきた。
それだけで嬉しさに胸がいっぱいになる。


シエーヌの近況のなかには、城の下働きの子どもたちの話題が書かれていた。
マティアスが新年の祝いとして贈ったお菓子にみんな大喜びしたそうだ。
城にいた頃は、ナターリエも折にふれ彼らにお菓子を振る舞ったものだ。
自分を慕ってくれた子たちの懐かしい顔を思い出す・・・みな元気にしているだろうか。
かれこれもう一年以上、故郷には戻っていない。


「あの子たち、きっとあの方のことが大好きになっているわね」
ナターリエは机の上にちょこんと座るオスカーに話しかける。
「あなたもでしょ?あんなに素敵な方はいないもの」
顎の下を撫でてやると猫はうっとりと目を閉じた。


マティアスからの手紙はもちろんシエーヌの管理者としてのものだ。
この恋心で彼を困惑させてはいけない・・・ナターリエは改めてそう思う。
良き領主となり、良き夫と出会うこと。それが彼が自分に望むことなのだ。
彼のような素晴らしい人に出会えたことに感謝し、務めを全うしなければ。

自分自身にそう言い聞かせながらも、相変わらず返事に頭を抱えるナターリエだった。




「まあ、ナターリエ様・・・そんなにご本を?」
図書室の本をどっさり抱えたナターリエにテレーザが声をかける。
「お知らせくだされば私がお運びしましたのに・・・あら、難しそうなご本」
ナターリエから本を受け取ったテレーザは目を見開いた。


「マティアス様のお手紙を読んでて、自分が領地運営のことを何も知らないことに気づいたの・・・もっと勉強しようと思って」
ナターリエは恥ずかしそうな小声で言う。


テレーザは彼女のけなげな努力に胸を打たれた。
急に領主の座についたナターリエはさぞ戸惑っていることだろうが、マティアスが教師役というのは幸運かもしれない。
彼は王子の右腕として長年学び、務めてきた人だから。


テレーザはまだ少年だった頃のマティアスを覚えている。
頭が良くて気さくで・・・それでいてどこか影のある印象だった。
それはおそらく彼の生い立ちと、辛い恋の経験ゆえだろうが・・・。


ナターリエはそのことを知るまいし、テレーザも人の事情を勝手に話す気はない。
彼女が何より優先すべきは主人であるナターリエの幸福と繁栄だ。
「素晴らしいお心ですわ。きっとあなた様はよい領主になられますわね」
年若き主人にそう声をかけると、ナターリエははにかみながら笑みを返してきた。