小説「光の物語」第106話 〜手紙 4 〜

小説「光の物語」第106話 〜手紙 4 〜

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手紙 4

王都からの二通の手紙を受け取ったマティアスはまずナターリエの手紙を開けた。


彼女の手紙はいつも通り、彼の助けとなる事柄が記されていた。今回はシエーヌの気候や季節ごとの特色などだ。
だが端々からは彼女が故郷を恋しがっている様子も伺えた。先日マティアスが城の子供たちの様子を知らせたこともあり、里心がついているようだ。


領主としての勉強を始めたともあった。
文章の様子から見るに、どうやら彼が書き送ったことを学ぼうと本を山積みにしているらしい。
マティアスは彼女の奮闘を可憐に思った。


結びには白猫オスカーの様子も綴られていた。
最近は修道院内の皆をとりこにし、アーベルからさえも可愛がられていると。
さすがにやるもんだな。猫のしたり顔を思い浮かべて一人にやにやする。


優しさに溢れた彼女の手紙を読むと心が休まる思いがした。
それにしても、彼女がここを離れてもう一年以上になるわけだ。
もとは両親の気に入る婿が見つかればすぐに戻る予定だったのだろう。
それが女伯爵として領地を預かる身となろうとは・・・なんという人生の激変だろうか。




もう一通はディアルからの手紙だった。
隣国ブルゲンフェルトの情勢悪化と、かの国に嫁いだ従姉妹のミーネを案じる内容だ。
彼女と家族を亡命させる場合に備え、経路や計画を練っておいてほしいとある。
容易ならざる事態に自然と身が引き締まる。


従姉妹のミーネ。陽気で気立てのいい彼女とはマティアスも仲が良かった。
今はブルゲンフェルト国王の甥であるアンゼルム公に嫁ぎ、息子も二人いたはずだ。
疑心暗鬼の国王に捕らえられでもしたらどんなことになるか・・・考えたくもない。
しかし夫のアンゼルム公にも何らかの心づもりはあろう。彼は亡命に応じるだろうか?


頭の痛い話だ・・・マティアスはため息をつきつつディアルの手紙を読み進める。
各地方の情勢や廷臣たちの人事などの話題が続き、最後に短くナターリエのことが記されていた。
『シエーヌの領主ナターリエ嬢は領主修行を始め、社交にも前向きな様子だ。遠からず良縁に出会うかもしれぬ』と。


それを読んだマティアスの胸は名状しがたい感情に覆われた。
ナターリエが領主修行を始めた?ああその通り。彼女の手紙にもそのことは書かれている。
だが社交に前向き?彼女はそんなことは一言も言っていないぞ。ディアルの勝手な思い込みじゃないのか?だいたいあいつはすぐに先走って・・・。


マティアスはディアルからの手紙を放り出し、せわしなく昼の書斎を歩き回った。