小説「光の物語」第111話 〜手紙 9 〜

小説「光の物語」第111話 〜手紙 9 〜

スポンサーリンク

手紙 9

国王とディアルは各地方からの報告書に目を通していた。
この冬の流行病は下火になりつつあるが、まだまだ予断を許さない。
初動の遅れで多くの犠牲者を出した都市もあり、歯痒さを感じずにはいられなかった。


「ヴェルーニャとの国境周辺では犠牲者が多いな」
父王の言葉にディアルも頷く。
「ええ。病の封じ込めがうまくいかなかったようで・・・」
記された死者数に思わずため息が出る。
「かの地の主要都市、エルガの患者数などひどいものだ。街の総督は何をしている?」
流行の初期に取るべき対策を伝令していたのに、エルガではほとんど守られていなかった。
国王は苛立ちをあらわにする。
「もともと人の出入りが多い街ですし、いまは国境地帯の道路整備もありますからね。しかし・・・」
それにしてもと二人は再びため息をついた。


「同じ国境沿いでもシエーヌの犠牲者は群を抜いて低いようだな。マティアスがあの地にいたのが幸いした」
シエーヌでは流行病の最初期に王都並みの予防策を講じ、感染拡大の阻止に成功していた。
必要な者は臨時の診療所で手当てを受けられ、大きな混乱も生じなかったとある。
二人はマティアスの働きを誇りに思った。
「事態が落ち着いたら王都に呼ぼう。何か褒賞を与えねば」
ディアルも従兄弟の働きはそれに値すると思ったが、同時にエルガの惨状を嘆かずにはいられなかった。




「お疲れのご様子ですわね」
部屋で夫を迎えたアルメリーアは気遣わしげな表情を浮かべる。
「流行病の状況がね・・・思ったより被害が大きくて」
「まあ・・・」
気落ちする夫の手を取って長椅子に座らせた。
「辛いことですわね・・・本当ならもっと生きられたはずの人々が・・・」
ディアルを抱き寄せると、彼はため息をついて彼女の肩に額をつけた。


「きみは?どこも具合は悪くないか?」
彼女を抱きしめながらくぐもった声で聞く。
この流行病以来、ディアルは彼女の無事を確かめずにはいられないようだ。
「私は大丈夫よ。心配なんてなさらないで。愛しい方・・・」
彼の髪を優しく撫でると、ディアルはやっと安堵したように深く息をついた。


「母上が亡くなった時のことを思い出してしまうよ」
「義母上様の・・・?」
「ああ。母上も流行病で亡くなったんだ。本当にあっという間だった」
「そうでしたの・・・」
似た状況の今は辛い記憶が蘇るのだろう。
アルメリーアは黙って夫の背を撫でた。