小説「光の物語」第114話 〜手紙 12 〜

小説「光の物語」第114話 〜手紙 12 〜

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手紙 12

部屋に戻ったマティアスはひとり苦笑した。
まさかあの子供たちが自分とナターリエをくっつけようとするとは。
たわいなさすぎて腹も立たないが、子供だけに全く遠慮がないな。


それにしても・・・ナターリエの母、亡きベーレンス夫人の狂態ぶりは想像以上だったようだ。
何かにつけて娘を罵倒しては、自信と力を失わせて支配しようとしていた。
しかも彼女から親しい人々を次々に遠ざけて・・・。
ひとりぼっちのナターリエの寄る辺なさを思うと胸がつまる。


彼女は自分と似ている・・・マティアスはそう思う。
初めて彼女の境遇を知った時にも思ったことだ。彼女が家出をして、事情をアルメリーアから聞かされたときに。
小さなナターリエはこの城で孤独に育ってきたのだ。
辛い気持ちをひとり胸の奥に抱え込んで。


抱きしめて守ってやりたい・・・あの花火の夜のように。
ふと胸をよぎった思いにマティアスははっとする。


ばかなことを。
それは彼女の夫になる者の役目だ。
おかしな思考を断ち切ろうと届いていた数通の手紙を手に取る。


定例報告ばかりで特に興味を引くものもない。
退屈な気分になって視線を窓に向けると、先ほど庭から見た山々が一望できた。
素晴らしい景色だ。このところは忙しくてこんなゆとりもなかったが。
春が近いことを感じさせる青空をのんびりと眺める。


・・・そういえば、この頃ナターリエからの便りがないな。
最後に手紙が来てからもうひと月は経っているが・・・。


ふいに悪い想像が矢のように飛んでくる。
まさか、流行病にかかったのではあるまいな。


いや・・・それならディアルから知らせがあるだろう。
彼女が病となればシエーヌの一大事、管理者である自分に連絡がないはずはない。
そうだ、だからその懸念はない。

ではなぜ彼女からの手紙は来ないのだろう?


・・・いい相手と出会って忙しくしているのだろうか?


しかしこの冬は病が蔓延し、社交ができる状況ではなかったはずだ。
彼女からの最後の手紙にもそう書いてあった。病を避けるため修道院にこもっていると。
男と出会う機会などあるはずがない。
だが・・・どこで何をしていようと、出会うときは出会うものなのだ。


マティアスの頭は次々に浮かぶ想像でいっぱいになり、景色を楽しむどころではなくなってしまった。