小説「光の物語」第115話 〜王都 1 〜

小説「光の物語」第115話 〜王都 1 〜

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王都 1

「一時は危なかったのですが、なんとか持ち直してくれました・・・」
春めいてきたある日、久々に参上した王城でナターリエは王子妃にそう話す。
「本当に恐ろしかったですわ・・・あんな幼い子が苦しんでいるのに、祈ることしかできなくて・・・」
修道院で共に暮らす子供たちのうち、ひときわ彼女に懐いているニーナのことだ。
ニーナは流行病に感染し、しばらくは生死の境をさまようほどの状態だった。


「そうだったの。その子が助かって本当によかったこと・・・」
話を聞いたアルメリーアもほっと胸を撫で下ろした。
幼い子供が苦しむのは辛いことだし、その子にもしものことがあったらナターリエにもひどい打撃となっただろう。
夫から彼の母が亡くなった時のことを聞いたアルメリーアにはその思いもひとしおだった。


「本当に・・・それに、入院している間にニーナは看護人に憧れるようになったんです」
「まあ、看護人に?」
思わぬ展開を見せる話にアルメリーアも興味をそそられる。
「ええ。自分もあんなふうに人を助けたい、そのために勉強を頑張ると言い出して。それに・・・」
ニーナはとある富裕な商人の娘で、母が亡くなったため修道院に入れられた子だった。
すでに再婚した父親は娘に関わる気は一切なく、危篤の知らせに返事すらよこさなかった。
その話を聞いたアルメリーアは小さく首を振る。


「あの子は心細い境遇ですから、そうした技能があればきっと助けになりますわ。私自身だって医師か看護人になれればと思ったくらいですもの。慈善病院の皆様のお働きを目にして・・・」
シエーヌの領主であるナターリエにはかなわぬことだが、それでも何かできないかとの思いは募る。
「そうね・・・」
アルメリーアにも彼女の気持ちはよくわかった。
しかし女子のための医学校はなく、看護学校自体も国内に数カ所だ。


「あなたが自分でなるのではなく、そのための機会を作るのはどう?シエーヌで」
「え・・・?」
その言葉はナターリエには思いもかけぬものだった。自分が機会を作る?
「ええ。医学校も看護学校も限られているでしょう?」
確かにそうだろうが、一体どうしたらいいのか?ナターリエには想像もつかない。


「まずは小さな看護学校を作るところかしら・・・最初は良家の子女しか入れないでしょうからね。読み書きができなければそもそも入学もできないわけだし・・・」
王子妃の言葉にナターリエは目を開かれた思いだった。
そうだ、シエーヌにも読み書きのできない子はたくさんいるのだわ。
「それから、あなたのニーナのように読み書きできる子を少しずつ増やして、入学者も増やして・・・気の長い話になりそうね」
アルメリーアはいたずらっぽく微笑む。


「私に、そんなことが・・・」
驚きと戸惑いを口にするナターリエにアルメリーアは優しく答えた。
「もちろんできるわ。あなたはシエーヌの領主なのだから」