小説「光の物語」第122話 〜王都 8 〜

小説「光の物語」第122話 〜王都 8 〜

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王都 8

「ブルゲンフェルトの姉に手紙を送ってみたけれど、まだ返事は来ないようね・・・」
自室で侍女たちを前にアルメリーアはため息をつく。
姉のレナーテがかの国に嫁いで以来、やりとりするのは時候の挨拶状くらいだったが・・・。


「あなたたちの親戚からも何か知らせはない?姉やブルゲンフェルトの様子について」
「申し訳ありませんが・・・」
「私の家からも、特には」
「そう・・・」
他国の王家の内情を知るのはやはり難しいようだ。
せめて姉が一言返事をくれれば・・・アルメリーアは再びため息をつく。


皆がそれぞれの持ち場にかかり、アルメリーアが一人になったところに一人の侍女がそっと近づいた。
「あの、妃殿下、お耳に入れたいことが・・・」
その様子から只事ではないことは察せられ、アルメリーアは小さく頷いて促した。
「実は・・・私の遠縁の娘が姉君様のお付きでご一緒にかの国に参りましたの。それで・・・」
「なにかわかったの?」
「その子からの手紙に書かれていたことなのです。真偽の程は不明ですが・・・」
言いにくそうに口ごもる。
「姉君様は、その・・・ブルゲンフェルトの国王陛下に気に入られておいでらしいのです・・・とても・・・」


その意味は尋ねるまでもなく、アルメリーアは目を見開いた。
姉がブルゲンフェルト国王の愛人に?
国王はアルメリーアたちの父より年上で、祖父と言った方がいいくらいのはずだった。


「そのため姉君様は王のお側に住まわれていて、ご夫君の領地へはほとんど戻られず・・・人々の見る目はかなり厳しいようなのです」
「厳しい?なぜ?」
王が愛人を持つこともそれが貴族の夫人であることも、特に珍しいことではない。
もちろん姉にそうなってほしくはないが・・・。


「その、若い愛人が王を骨抜きにして贅沢三昧だと・・・ブルゲンフェルトの王妃様はご高齢ですので余計に・・・」
静かに暮らす王妃と比較されて非難が集中してしまったようだ。
姉のことだ、王の寵愛をかさにきて傍若無人に振る舞ったのかもしれない。
アルメリーアは額に手を当てた。


「それに、悪いことにこのところ王室内のごたごたが絶えませんでしょう。その件についても姉君様が影で王を操っていると・・・そう噂されているらしく」
人々の怨嗟の念が姉に向いてしまっている?政情不安なあの国で・・・。
姉の身に危険が迫っているのだろうか・・・。


「申し訳ございません、こんなことをお伝えしてしまって・・・」
考え込んでしまったアルメリーアに侍女は心苦しげに詫びる。
アルメリーアは無理に笑みを浮かべて彼女の手をそっと握った。
「いいのよ、謝らないでちょうだい。話してくれて助かったわ・・・姉の様子は何もわからなかったのですもの」
だが、わかったとしてもできることがあるのか・・・アルメリーアは途方に暮れる思いだった。




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