小説「光の物語」第126話 〜王都 12 〜

小説「光の物語」第126話 〜王都 12 〜

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王都 12

アルメリーアはサロンで笑いさざめく貴婦人たちをぼんやりと眺めていた。
王子妃としての務めや社交はいつも通りこなしていたが、頭の片隅には最近の気がかりが居座っていた。


姉がブルゲンフェルト国王の愛人になったというのは本当の話なのだろうか?
伝えてくれた侍女を疑うわけではないが、間違いであってほしいとアルメリーアは思う。
仮にもリーヴェニアの王女が愛人になるなど・・・いくら相手が国王でも不名誉なことだ。
それに、もしあの国で姉の身に何かあったら・・・。


「・・・ビュシュケンス夫人は腰の痛みにお悩みのようで」
「あの方はいつもどこか痛いと言っておいでよ。この間は・・・」
周囲の夫人たちの噂話が聞くともなく耳に入る。
話題のビュシュケンス夫人のぷりぷりした様子を思い浮かべ、アルメリーアは少し気がなごんだ。


「そうそう、新婚のラッツィンガー夫人ですけど」
その名前はアルメリーアの注意を引いた。
ラッツィンガー夫人といえば、昨年結婚した行儀見習いのクリスティーネだ。
アルメリーアにとっては妹も同然の存在だった。
彼女がどうしたのだろうか?


「どうやらおめでたらしいですわ。ご夫妻もご両親もそれはお喜びだとか」

その言葉はアルメリーアの胸を槍のように裂いた。
彼女が聞き耳を立てているとも知らず、女性たちの話はなおも続く。

「まあ、まだご結婚から間がないでしょう?」
「半年ほどでしたかしらね・・・。でもどうやら確からしいですわ。私の召使いがあの家の者からいろいろ聞いて・・・」
「あなたは早耳でらっしゃるから・・・」
笑いさざめく夫人たちの声もアルメリーアにはどこか遠くに感じられた。



サロンのナターリエは相変わらずブリギッテに悩まされていた。
何かきっかけさえあれば、彼女はナターリエをだしにして話に割り込んでくる。
ナターリエもなんとか応酬はするものの、こうしたやりとり自体が消耗でしかなかった。
一体なぜ彼女は自分にこうも付きまとうのだろう?


「それは・・・たぶん、あなた様のご気性を嗅ぎつけているのでしょうね」
庭に出て一休みしていた時、ナターリエの疑問に侍女のテレーザが答えた。
「私の気性・・・?」
ナターリエはなんとなく心配になる。
「お優しくて、とても良心的で・・・ご自分が人に意地悪をしないから、ほかの人もそうだと思っておいでで・・・」
「そ・・・」思いがけない評にナターリエは赤くなる。「そんなことないわ・・・私、とても自分勝手なのよ」
マティアスへの揺れる心を思い出し、ナターリエはそう言った。
崇拝に近いほど慕っていたマティアスを最近では避けたり、腹を立てたり・・・。


「あなた様の基準では自分勝手なことも、本物と比べれば物の数にも入りませんとも・・・本当の自分勝手とはブリギッテ嬢のようなのを言うのですわ。あなた様を利用しようなど罰当たりな」
主人を思って憤慨するテレーザにナターリエは笑みをこぼす。
「テレーザったら・・・落ち着いてちょうだい。彼女がああなのは何かわけがあるのかもしれなくてよ」
「もう、ナターリエ様、お人がよすぎますわ・・・」


嘆くテレーザをナターリエはなだめた。
テレーザがこうして自分のために怒ってくれる、それはナターリエには心あたたまることなのだった。


だが・・・こうしたお人好しな態度こそが、ブリギッテやゲオルグのような輩を引き寄せる元なのだろうか?
ナターリエはふとそう思う。
もしそうなのだとしたら、今後の自分がとるべき態度は・・・?
彼女の心に初めてその問いが浮かんだのだった。