王都 13
「なんだか元気がないね」
その夜、晩餐室から部屋に戻ったディアルはアルメリーアにそう尋ねた。
「え・・・そうかしら・・・」
さりげなく振る舞っていたつもりだが、夫の目はごまかせなかったらしい。
「どこか具合でも悪い?」
案じる彼に小さく首を振る。
このところ姉のことで悩んでいたうえに、昼にサロンで聞いた話が胸にこたえていた。
それに自分のこうした反応にも嫌気がさしていた。
ディアルは彼女を抱き寄せて頭を撫でる。
「無理に話せとは言わないが、そんな様子だと心配になるよ。まさか他に好きな男でも?」
冗談に彼女は小さく笑い、そのおかげで少しだけ話せるようになった。
「今日、サロンで聞きましたの・・・行儀見習いだったクリスティーネが懐妊したようだと・・・」
ディアルは驚いて手を止め、彼女の顔を覗き込んだ。
彼女は沈んだ表情で俯いたままだ。
「こんなに動揺するなんてと自分でも思うけれど・・・でもとても切なくて・・・」
ディアルは呟く妻の頬に手を当てた。
彼女は眉根を寄せて目を閉じる。
「素直に喜びたいのにそうできなくて・・・情けないわ。妹のようなあの子に嫉妬するなんて・・・」
滲む涙を指先でそっとぬぐった。
「・・・嫉妬ぐらいいいじゃないか。求めてやまないものを他のやつが手に入れたんだ。嫉妬して当然」
頭の上から聞こえた言葉にアルメリーアはほっと気が抜けた。
子供のこともだが、クリスティーネの幸福を手放しで喜べないことが一番辛かったのだ。
「・・・でも、恥ずかしいわ・・・誰にも嫉妬などしたくないのに・・・」
しおれる彼女のほおを両手ではさみ、ディアルは大きな音を立ててキスをした。
「いいや、嫉妬しなきゃだめだ。好きなだけ妬んで、悪口を言って、やっかみの限りを尽くさないと」
涙目でぱちくりした妻に彼は続ける。
「なんなら窓から叫んだっていい。『この生意気な小娘め』って。衛兵を驚かせてやれ」
小さく笑いを漏らす彼女の髪にキスする。
「私も一緒に叫ぶよ。『青二才が百年早い』ってさ。きっとすっきりするだろうな」
泣き笑いしだした妻を抱き上げて寝台に腰掛ける。
「その後はどうしようか。呪い師でも呼んでみる?それとも・・・」
アルメリーアは小さく笑って首を降り、夫に抱きついて首に顔を押し付けた。
彼女の涙で彼の肌が濡れる。
「愛してる・・・」
アルメリーアはすすり泣きながら小さく囁いた。
「私も愛してるよ。私の大切な奥さん」
身を寄せる妻を彼はしっかりと抱きしめた。