小説「光の物語」第129話 〜王都 15 〜

小説「光の物語」第129話 〜王都 15 〜

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王都 15

「ブルゲンフェルトからの亡命には、この経路が一番安全そうだな」
書斎に地図を広げ、ディアルはマティアスと打ち合わせを進めていた。
かの国に嫁いだ従姉妹のミーネを亡命させる場合に備え、いくつかの候補から最適の道を選び出す。
「そうだな。追手でもかかれば変更せねばならんが」マティアスも答える。
「追手か。そこまでするかな」
「その時の状況によるだろうな。国王の気分にも」
「ブルゲンフェルト国王か・・・」ディアルはため息をつく。


「即位してもう四十年近くだ。そろそろ引退すればいいものを」
「権力を手放せないんだろうよ。まわりは敵だらけだし、肝心の後継ぎとも不仲らしいから」
「なんとも息苦しそうな国だな・・・」
もう一つため息をつき、ディアルは地図をたたんだ。
「おまえと陛下が特別なんだよ。権力者の家庭など大かれ少なかれそんなものさ」
「私は確かに幸運だよ」
マティアスやアルメリーアの家庭を思い、ディアルは答える。
「まったくな、妃殿下との睦まじさといい。おまえたちなら何人子ができても家族円満だろうさ」
マティアスの軽口にディアルは動きを止めた。



「・・・アルメリーアの前でその手の話題はよしてくれよ」
ディアルの声音にいつもと違う響きを感じ、マティアスは少し戸惑った。
「その手って、子供のことか?」
「ああ」ディアルは渋い顔をする。「少し気に病んでるみたいでね。焦ることはないと言ってるんだが」
「なるほど」マティアスは頷いた。
二人の婚礼から二年がたち、そろそろ後継ぎをと皆が望み始める頃だ。
王子妃である彼女が重圧を感じていても不思議ではない。


「悩みは絶えないな」
からかうマティアスにディアルはやり返す。
「おまえには悩みなどないとでも?」
ナターリエのことをほのめかされているのをマティアスは察したが、気づかぬふりをする。
「そりゃ私にだって悩みはあるさ。今日の天気から王城での会議まで、いろいろね」