小説「光の物語」第136話 〜王都 22 〜

小説「光の物語」第136話 〜王都 22 〜

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王都 22

誘惑者ゲオルグの来都を知ったアルメリーアは、女官たちに注意を促した。
ナターリエは安全だとしても、社交界に不慣れな他の娘たちのことも気にかかる。
恋に憧れる少女がもて遊ばれるようなことはできれば起きてほしくなかった。


「まあ、何食わぬ顔で王都にやってくるとは・・・」
「まことですわ。いくらノイラート隊長のお供とはいえ」
ばあやや他の女官たちも呆れ顔だった。
「今回の会議はとても忙しそうだから、彼も遊ぶ間などないかもしれないけれど・・・」
アルメリーアの言葉に女官たちはそろって首を振る。
「誘惑者とはそれはまめなものなのですわ・・・ただ中身はございませんが」
「ええ、それに獲物を見つけるのもうまくて・・・」
物知りな女官たちに誘惑者の生態を聞かされ、アルメリーアは目をしばたたかせるばかりだった。



女官たちが下がった後、アルメリーアは届いていた書状を手に取った。
歳の離れた一番上の姉からのもので、差出人の名を見たアルメリーアは顔をほころばせる。
「ばあや、ラドレイユに嫁いだユリアーナお姉さまからよ」
弾んだ声のアルメリーアにばあやも笑みを浮かべる。
「まことでございますか。お懐かしい・・・」


長姉ユリアーナは大国ラドレイユの王家に嫁いでいた。
アルメリーアが嫁いだローゼンベルクとは祖国リーヴェニアをへだてて反対側に位置する国だ。
姉夫婦の仲は円満で知られており、すでに四人の子もなしていた。


穏やかで考え深いユリアーナは、アルメリーアにとってはばあやと同じく頼れる存在だった。
その姉からの手紙には、三番目の姉レナーテの嫁ぎ先について案じる言葉が綴られている。
「ユリアーナお姉さまの耳にも、ブルゲンフェルトの政情不安は聞こえているようね・・・」
アルメリーアは顔を曇らせた。


「ユリアーナ様はなんと?」
手紙を読み終えたアルメリーアにばあやが尋ねる。
「・・・レナーテお姉さまの身に危険が迫っているかもしれないと・・・」
ブルゲンフェルトの政情悪化でレナーテの夫が失脚することを、ユリアーナの手紙は案じていた。
だが、アルメリーアには別のことも心配だ。


「危険?まさかそのような・・・」
驚きを隠せないばあやにアルメリーアは声をひそめる。
「もしかしたら、あり得るかもしれないわ・・・だってレナーテお姉さまは・・・」
ブルゲンフェルト国王の愛人らしいという噂はばあやにも伝えてあった。
他の誰かが失脚するまでもなく、姉自身が人々の憎しみの的になるかもしれない。


ばあやもそこに思い至り、言うべき言葉を失ってしまった。