小説「光の物語」第137話 〜王都 23 〜

小説「光の物語」第137話 〜王都 23 〜

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王都 23

アルメリーアはひとり考え込んでいた。
姉の身が危ういとして・・・自分にできることはあるのだろうか?


三番目の姉レナーテはブルゲンフェルト国王の甥、グライリヒ公に嫁いでいた。
公は内気な人物で、身分のわりに存在感は希薄らしい。
野心的な姉にとっては物足りない夫なのだろうか。
それで国王の愛人になど・・・?


「殿下に相談すべきかしら・・・姉に助力をと」
昼にばあやと話したことを思い出す。
「それは・・・」ばあやは答えに窮していた。「姉君様のことは心より案じられますが、ひとつ間違えばお国にも影響が・・・」
「そうね・・・」
噂がまことであれば、姉だけでなく母国リーヴェニアの恥ともなろう。
それに夫には夫の立場があり、難しい立場の義姉とおおっぴらには関われないかもしれない・・・。


レナーテお姉さま・・・アルメリーアは故郷にいた頃の姉を思う。
話し好きで、情熱的で、いつもなにかに夢中になりたがっていた。
母を盲目的に崇拝し、気に入られようとあらゆる努力を重ねていた。
芸術に没頭し、移り気な宮廷の流行に没頭し・・・まるで蜃気楼を追うかのように。


その報われぬ奮闘ゆえに、いつしか彼女はアルメリーアにとって遠い存在となっていった。
それでも、姉が嫁ぎ先で幸福を見つけることを願っていたのだ。
見果てぬ夢から覚め、新たな人生を築くことを・・・。



「もうすぐ晩餐が始まるぞ」
ふいにかけられた声にアルメリーアは飛び上がった。
「ま、まあ・・・驚いたわ。いつからいらしたの?」
「ついさっきだが・・・幽霊にでもなった気分だったよ。部屋に入っても全然気づかないんだから」
ディアルは笑って隣に座る。


「何かあったのか?」
優しく頬に触れる指の温かさに、アルメリーアはふっと体の力が抜けた。
「いいえ・・・ただ・・・」
夫の顔を見つめるうち、言葉にならない思いが込み上げてくる。
こうしていつも気にかけてくれる彼に出会えて、自分はどれほど幸運だったか・・・。


アルメリーアは彼の首にそっと腕を回し、彼の頭を抱き寄せて唇を寄せた。
ディアルは少し驚いたようだが、やがて彼女を抱き返してくる。
キスを深めるうちに熱がこもり、二人はだんだん夢中になり始めた。
「・・・食事なんてすっぽかすか」
彼女を長椅子に寝かせようとしながら彼は囁く。
「だめよ。お客人が大勢いるでしょう?」
「それが何だ」
いたずらっぽく身を寄せてくる彼を笑いながら押し返した。


「・・・この埋め合わせは後でしてもらうぞ」
名残惜しげに彼女を抱き寄たまま、低い声が耳元で言う。
「望むところだわ」
彼女の答えにディアルは満足げな笑いを漏らした。


そうだわ、レナーテお姉さまもきっと、嫁ぐ時に伝えられているはず。お父様から万一の備えを・・・。
夫のおかげで気持ちが軽くなったアルメリーアは、ふとそのことを思い出す。
もしもの場合はそれを役立ててくれるかもしれない・・・。
心にわずかな希望が芽生え、アルメリーアは少しだけほっとした。