小説「光の物語」第145話 〜転変 1 〜

小説「光の物語」第145話 〜転変 1 〜

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転変 1

隣国ブルゲンフェルトから届いた知らせはローゼンベルクの宮廷をも揺るがした。


かねてから不仲だった隣国の国王と王太子は、ある日些細なことから口論となった。
かっとなった国王は王太子の頭を杖で殴打し、その傷がもとで王太子は亡くなってしまったのだ。
王位継承者の死は元から緊張していた隣国の情勢をさらに悪化させた。
王太子の側近であった者たちが国王の退位を求めて城に押し寄せ、軍が出動する騒ぎとなった。
城を囲む者たちの中には死傷者も出ており、軍との睨み合いは現在も続いているという。


「何たることか」
国王グスタフはその報告に嘆息するばかりだった。
「自ら後継ぎを死なせてしまった国王は茫然自失の状態とか・・・」
報告書に目を通していたディアルが苦り切った様子で付け加える。
「ブルゲンフェルト国王にはもう一人息子がいますがまだ年若く、しかも暗愚なたちだともっぱらの噂」
亡くなった王太子は経験を積んだ有能な人物として皆に認知されていた。
それは不仲であったブルゲンフェルト国王自身からも。


「なんと嘆かわしい・・・」
「かの国の宮廷の勢力図はこれでがらりと変わりますな」
「それにあるじを失った王太子の側近たちがどう出るか・・・」
隣国だけの揉め事では済まず、ローゼンベルク国内にも飛び火することを重臣たちは危惧する。



国王は長いため息をついた。
「老いたな・・・ブルゲンフェルト王も」
深い感慨を込めた声で呟く。
「まだ余が王子の頃に会ったことがある。油断のない、恐ろしいほど切れる男だったが・・・」
国王グスタフも若き日に外遊をしたことがあり、訪問先のブルゲンフェルトでかの王に接したことがあった。


しばし黙考していた国王だが、頭を切り替えるように重臣たちに尋ねる。
「かの国に嫁いだミーネに連絡は?」
ミーネとは国王の姪で、ディアルやマティアスの従姉妹だった。
彼女の夫はブルゲンフェルト宮廷内の有力者であるアンゼルム公だ。
「亡命の手はずについてはすでにお知らせしてあります。ですがアンゼルム公が脱出に同意なされるか・・・」
「うむ・・・」


アンゼルム公の立場を思えばその決断は容易ではあるまい。
国王は目を窓の外に向け、眉根を寄せて再び考え込んだ。