小説「光の物語」第146話 〜転変 2 〜

小説「光の物語」第146話 〜転変 2 〜

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転変 2

「なんてこと・・・」
隣国ブルゲンフェルトの政変を夫から聞かされたアルメリーアは、出来事の痛ましさを嘆いた。
父が我が子を手にかけたとは・・・しかも癇癪が原因で。
「よりによって・・・だな。王太子派だった者たちは黙ってはいまい」
ますます難しくなった隣国の情勢にディアルはため息をつく。


「これからどうなるのかしら。フルゲンフェルトで内戦が起きるとお思い?」
ディアルは落ち着かなげに額に手をやった。
「ことここに至ってはなんでも起こりうる。ミーネもどうなるか・・・」
仲の良かった従姉妹を思い、彼は眉をひそめる。
もしも民衆が暴徒と化し、彼女や家族に襲いかかったら・・・。


「彼女が亡命するならシエーヌが通り道になる。ブルゲンフェルトに最も近い土地だから」
「まあ・・・」
だとしたら、かの地を管理するマティアスにとっては大変なことだ。
「それで、マティアス様はなんと?」
「今日シエーヌに発ったよ。国境の守りを固めるためにも」
「そう・・・人々もきっと不安がっているでしょうね」
亡命してくるミーネ一家を護衛し、もしもの追手や暴徒から国境を守る・・・生じうる数多の混乱をアルメリーアは憂う。


隣国ブルゲンフェルト。いつ暴発するかわからない火種のような大国。
その印象は、そのままブルゲンフェルト出身の母に通じるものがあった。
自分も周りももろとも滅ぼすかのような、ある種の救いがたさが・・・。



「みな無事でいてくれるといいけれど・・・なんだか恐ろしいわ」
アルメリーアは胸に手を当てて呟き、ディアルはそんな彼女をそっと抱き寄せる。
「心配しすぎないで・・・きっとうまくいくさ」
夫の励ましと心に交錯する思いとに彼女は目を閉じた。


マティアス、ミーネ、そしてかの国に嫁いだ姉レナーテ。
相変わらず姉からの返事はなく、様子はわからないままだ。
ブルゲンフェルト国王の愛人らしいという姉は、一体どう過ごしているのか・・・。


それに、マティアス・・・藤棚の下で出会った彼を思い出す。
彼はナターリエを心から愛しているのだ。
それなのに癒えない傷が彼を一歩も動けなくしている。
彼の歳月がそのまま過ぎてしまうとしたら、それはあまりに悲しいことだ・・・マティアスだけでなく、彼を慕うナターリエにとっても。


行き場のない感情を鎮めようと彼女は夫の温かな胸に顔をうずめる。
事態を案じ、妻のぬくもりに慰めを求めたい思いはディアルも同じだった。
二人は沈黙したまま、ただ互いの存在に安らぎを見出していた。