小説「光の物語」第147話 〜転変 3 〜

小説「光の物語」第147話 〜転変 3 〜

スポンサーリンク

転変 3

隣国ブルゲンフェルトの政変を受け、シエーヌに戻ったマティアスは多忙を極めていた。
国境線の守りを強化すべく重臣たちと協議し、各所に緊急の指令を送る。
平時より増えた兵士の姿で街はにわかに慌ただしくなった。


同時に、ブルゲンフェルトに嫁いだ従姉妹ミーネの亡命に備える必要もあった。
彼女に危険が及ばぬよう慎重にことを運ばねばならない。
王都から同行した側近たちと合議を重ね、必要な措置を取るうちに日は過ぎていった。


「ブルゲンフェルトが攻めてくるかもしれないって・・・本当ですか?」
そんなある日のこと、久しぶりの遠乗りから戻ったマティアスに馬番のハンスが話しかけてきた。
「そうだな・・・あの国の内情が荒れているのは確かだから、とばっちりを食らうことはありうる。そうならぬよう努めているが」
それを聞いたハンスは苛立たしげな声を上げた。
シエーヌにはブルゲンフェルトの脅威にさらされてきた歴史があり、かの国に対する人々の感情にも複雑なものがあった。


「まったく迷惑な国ですよ。あんなのが隣にいるなんて・・・」
ハンスがこぼすのを聞いてやりながら、マティアスは人々の不安が高まっているのを感じる。
その緊張を和らげるための方策についても彼は思いを巡らせていた。



「・・・」
夢を見ていたマティアスは夜中にふと目を覚まし、暗い寝室に起き上がった。
このところ毎夜同じ夢を見ては、同じように目を覚ましているのだった。
最後に会った時のナターリエの姿、か細い声で伝えられた言葉。
彼に出会えたことが彼女のかけがえのない宝だと・・・。


マティアスは一人ため息をつく。
彼女に何も答えずじまいだったとは。
あまりにも間が悪かったとはいえ・・・どうにも自分が情けない。
だが・・・邪魔が入らなかったとしても、一体何を言うことができただろう?


伝えるべき言葉を見つけられず、シエーヌに戻る前に彼女を訪ねることもできなかった。
きっとナターリエは今頃悔やんでいるだろう。恥じてさえいるかもしれない。
そんなふうに感じる必要はないのに。情けないのは自分の方なのに・・・。


誰とも深く関わらないことが身上のはずだった。
自分はうまく難を逃れたのか?それとも愚かな過ちを犯しているのか?
マティアスは葛藤に苛まれ、再び部屋にため息を響かせた。