小説「光の物語」第152話 〜転変 8 〜

小説「光の物語」第152話 〜転変 8 〜

スポンサーリンク

転変 8

隣国ブルゲンフェルトの政変を受け、王国中が緊張感を増していた。
ブルゲンフェルトと北の国境を接するシエーヌ方面はもちろんだが、それ以外の国との国境地帯も警戒は怠れない。
各地からの報告を受けるディアルもまた、これまで以上に多忙な日々を送っていた。


「今日も忙しそうだな」
砲兵隊教練場の視察から戻ったディアルに国王は声を掛ける。
「国の大事とはいえ無理はするな。おまえが倒れるようなことがあっては」
案じる国王にディアルは微笑んで答える。
「私のことなら心配ご無用、一晩眠れば元通りです。それより父上こそお疲れなのでは?」
国王グスタフは近頃少し痩せてきており、食もあまり進まぬようだ。
「まあ、な・・・血の気の多い大国に囲まれているのは、快適とは言えぬゆえ」
国王はさらりと受け流したが、父王の顔色の悪さがディアルには気がかりだった。



アルメリーアの元には各国に嫁いだ姉からの便りが届いていた。
南の隣国ヴェルーニャ、東の隣国ガンツ、そして故国リーヴェニアをはさんで西の大国ラドレイユ。
それぞれの宮廷に嫁いだ姉たちは、それぞれに得た情報をもとにブルゲンフェルトの動向を危惧していた。
そしてかの国に嫁いだ三番目の姉、レナーテのことも。


ヴェルーニャに嫁いだ二番目の姉カミーユからの手紙には、少しだけレナーテの様子が書かれていた。
レナーテはブルゲンフェルトに嫁いでからも次々なにかに夢中になっており、何かを見つけるたびに熱のこもった手紙を送ってきていたと。
ただ、このところはそうした手紙もぱったり途絶えているらしい。
何かに熱中した時のレナーテを思い出し、アルメリーアは物憂さをおぼえる。


母国リーヴェニアの父からも、やはり姉たちと同じことを案じる手紙が届いていた。
故郷であるリーヴェニアとアルメリーアの嫁いだローゼンベルクは、ともに大国に囲まれて隣り合う山岳国だ。
だがローゼンベルクは母国よりもブルゲンフェルトの近くに位置するため、もしもの時にはレナーテを助けてほしいと書かれていた。


「どの国も、ブルゲンフェルトの動向に戦々恐々としているようね・・・」
アルメリーアは手紙を読み終えてため息をつく。
「無理もございません。あの国は一体何をしでかすやら・・・」
そばに控えるばあやはいたわるように答えた。


アルメリーアは読み終えた手紙の束に目をやる。
この時勢を受け、父や姉たちからはこうしてレナーテの身を案じる便りが届いた。
だが、レナーテが誰より崇拝する母からは何の反応もない。
母らしいといえばそれまでだが・・・。


それにブルゲンフェルトに嫁いだ姉、レナーテ自身からも相変わらず音沙汰はなかった。
彼女は一体、無事でいるのだろうか?


再びため息をついたアルメリーアを励ますように、ばあやが背中に手を当てる。
その感触に慰められたアルメリーアは、生まれた時からの忠臣にそっと笑みを返した。