小説「光の物語」第13話 〜春 5〜

小説「光の物語」第13話 〜春 5〜

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「この詩集は母も好きでしたわ」


少し肌寒い午後、二人は暖炉に火を入れて城の図書室で過ごしていた。
「きみの母上はどんな方なの?リーア」
暖炉の前に並んで座る妻を、彼は二人だけの呼び名でやさしく呼ぶ。まわりにはクッションや敷物がいっぱいに敷き詰められ、居心地良く整えられていた。


「母は芸術の愛好家で、芸術家たちの後援も勤めていましたわ。母のサロンにはいつも人が出入りして、朗読会やコンサートを開いていましたの」
「きみも何か歌ったりしたのかい?」編み込んだ彼女の髪におくれ毛をそっと撫で入れる。
「時々は。私も音楽は好きですけれど、母ほどの熱心さはなくて。芸術家にはなれませんわね」
「きみはきみだ。それで十分以上だよ」
アルメリーアが幸せそうに笑って彼の頬にキスをする。黙って彼女の笑顔を見つめていたディアルが、ふと体を倒して彼女の膝に頭を乗せた。


アルメリーアはしばし驚いたが、「どうかなさったの?」と彼のつややかな髪に指を通して撫でる。
ディアルは黒くて少しウェーブのかかった髪をしていて、そのなめらかな感触が彼女は大好きだった。
「いや・・・ただちょっとこうしてみたかったんだ」彼女の指の動きに気持ちよさそうに目を閉じる。「重い?」
「いいえ・・・」甘えてくるような彼の様子を可愛らしく感じ、ゆっくりと髪をすき続ける。いつもとは違う角度から見る彼の耳や首筋に、彼女は見とれた。
「気持ちがいいな。すぐに眠っちゃいそうだよ。なぜだかこのところ寝不足でね」
すまして言う彼の鼻をアルメリーアはきゅっとつまんだのだった。