小説「光の物語」第28話 〜降誕祭 5〜

小説「光の物語」第28話 〜降誕祭 5〜

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降誕祭 5

一人掛けの椅子に座ったマティアスが笑みを浮かべた。
「殿下は相変わらずお忙しそうだ」
「ええ。でもマティアス様も・・・何か月も大変なお仕事をされていたとか」
マティアスは胸に手を当てて頭を下げた。「貴婦人のいたわりに勝るものはございません」


少し首を傾げ、アルメリーアが尋ねる。
「マティアス様はご結婚は?」
マティアスは少し驚いたように彼女を見返し、それから苦笑いした。
「あなた方は確かに気が合っているらしい。ついさっき、殿下からも同じことを聞かれましたよ」
「本当に?」彼女も笑みを浮かべた。「それで、ご縁談はおありにならないの?伺ってもよろしければですけれど」


王子妃のなにげない口調に思いやりを感じ取り、マティアスも少しだけ真面目に答えた。
「女性は結婚に多くの夢を抱いているものでしょう。私ではあまりに役不足なのですよ」
「そんな・・・どうして?」
マティアスは笑い、直接は答えなかった。


「そうしておられると先の王妃陛下を思い出します。あのお方もいつもその椅子に座っておられた」
話の転換にしばし戸惑う。「王妃様が?」
「ええ。あの方と、殿下と、時おり政務の間に来られる国王陛下と。
ご両親に囲まれた殿下は、安心しきって母君に甘えておいででしたよ。
殿下がしでかしたいたずらをあまり叱らないでやってくれと、王妃様が陛下にお願いしておられたこともありましたよ・・・ちょうどさっき、あなたが殿下にしていらしたようにね」


何気なく語るマティアスからなぜかたまらない寂しさを感じ、アルメリーアは何も言うことができなかった。