降誕祭 9
「お久しゅうございます、殿下」
降誕祭の礼拝に集まった人々の中に、ディアルにとって懐かしい人物がいた。
以前王城の女官長を務めていたエデルガルド・アーベルだ。
ディアルは彼女を敬愛を込めて「アーベルのばあや」と呼んでいた。
「久しぶりだね、アーベルのばあや。元気そうで嬉しいよ」
「私のほうこそ。それにお妃様にもお目にかかれて光栄でございます。お二人の仲睦まじさは都じゅうの評判で、かげながらお喜び申しあげておりました」
彼女はディアルの母ヘレーネが子供の頃から仕えていたが、アルメリーアの輿入れ前に引退していた。
しかしその手腕は皆に認められていたため、国王とディアルの推薦で現在は王立修道院の運営にあたっていた。
「きょうお会いできるのを心待ちにしておりました。まことになんとお似合いの、お美しいご夫婦でしょう」
並んで彼女を歓待するディアルとアルメリーアを彼女はほれぼれと眺めた。
アルメリーアも温かみと貫禄のあるアーベルに好感を抱いた。
大広間での挨拶だけではとても足りなく感じ、近々の再会を約束して別れた。
「彼女には宮廷に残っていてほしかったわ」
アルメリーアが惜しむと、ディアルは彼女の手をぽんぽんと叩いた。
「私も止めたんだが、『新しいお妃様に必要なのは新しい宮廷です』と言ってね。そういう人なんだよ」
アーベルの後ろ姿を見送りながら言う。
「またいつでも会えるさ。王立修道院はそう遠くないからね」
「殿下、妃殿下、そろそろ礼拝のお時間です」
聖堂へ向かう時間を従者見習いのパトリック少年が知らせにきた。
「パトリック、最近は元気にしているの?」
アルメリーアが微笑んで尋ねると、パトリックは以前よりは少し落ち着いた声で答えた。
「はい、妃殿下。また母に手紙を書こうと思っています。字をたくさん覚えないといけないけど、ナターリエ様が手伝ってくれて」
「ナターリエ嬢が?」
ナターリエは王城に一家で滞在しているベーレンス伯爵家の令嬢だ。
内気な性格らしく社交に精を出すことはあまりなかったが、彼女なりに城での交友を広げていたらしい。
「そうなの、とても親切ね。私からもお礼を伝えてちょうだい」
「はい!」
元気いっぱいの返事にアルメリーアとディアルは顔を見合わせて笑った。