小説「光の物語」第33話 〜降誕祭 10〜

小説「光の物語」第33話 〜降誕祭 10〜

スポンサーリンク

降誕祭 10

降誕祭の長い礼拝が終わり、ディアルとアルメリーアは聖堂から小雪の舞う外へ出た。
「やれやれ、やっと終わった」
ため息混じりに口にするディアルにアルメリーアは小声で告げた。
「聞こえますわよ」
「誰に?」
言うそばから聖職者たちが連れ立って挨拶に訪れ、ディアルは素早く笑みを浮かべて彼らに応対した。


「気を抜くのが早かったか」
挨拶を終えてぼやくディアルにアルメリーアはくすくすと笑う。
その時、彼は聖堂から出てくるマティアスに気がついた。
「ちょっとごめん」
アルメリーアに告げ、マティアスに近付いて声をかける。


「来てるとは思わなかったよ」
ディアルの言葉にマティアスは小さく笑った。
「人を不信心者みたいに言うなよ」
「そうじゃなくて、礼拝の前に見かけなかったからさ」とディアルも笑みを浮かべた。「どうだ?せっかくだし、少しサロンで話していかないか」
マティアスは少し離れたところにいるアルメリーアをちらと見て答えた。
「今日はやめておくよ。ちょっと行くところもあるしな」
ディアルはその言葉が意味するところを察して笑う。「そうか。わかった」そしてマティアスの二の腕を軽くはたいた。「うまくやれよ」
「そっちこそ」
軽く笑い声を立て、二人は別れた。


マティアスはその場に佇んだまま妻のところへ戻る友を見送った。
ディアルはアルメリーアのもとへ戻り、彼女は彼を迎える。
彼らにはそれが当然なのだ。互いが互いの居場所なのだから。
彼は彼女のマントのフードをかぶせ、雪片がついたらしい頬をそっと親指でぬぐう。
彼女はそんな彼を見上げて優しく微笑む。
彼女が彼を見つめる眼差し。彼が彼女に触れる仕草。
二人がどれほど愛し合っているかは誰の目にも明らかだ。


昔、自分にもああした眼差しを向けてくれた人がいた。
だが今はもういない。
そして、夢は実現すると信じていた自分ももういないのだ。


友人夫婦は寄り添って彼らの家へ戻る。
舞い落ちる雪は聖堂の光にしばし照らされ、また闇に消えていった。


マティアスには、雪が世界と自分を隔絶する帳のように感じられた。
友がいるところと自分がいるところはまったく別の世界だと。