新年 3
「フランツ、しばらくだな」
王城に到着した砲兵隊長、フランツの挨拶にディアルが答える。
フランツは髭をたくわえた三十がらみの男で、十代の頃から砲兵隊で鍛えてきたベテランだった。
「殿下にはご機嫌麗しく。また、リーヴェニアの王女殿下とのご結婚おめでとうございます。あいにく任地に赴いたところで、婚儀には出席できませんでしたが」
「ありがとう。前に会ったのはきみの任命式だから・・・あれからもう一年になるか・・・」
話を続けるディアルとフランツの後ろで、マティアスはフランツの従者に話しかけた。
「名はたしか・・・ゲオルグだったね。長旅ご苦労」
「いたみ入ります。マティアス様もお変わりなく」
「変わりなさすぎるのも問題かもしれんがね」とマティアスは笑った。
「フランツ殿にはたしか、最近三人目のお子が生まれたな。きみには妻子があるのか?」
何の気なしにマティアスは尋ねる。
ゲオルグはすらりと背の高い色男で、顔にはいつも笑みを浮かべていたが、その表情にも言葉にも何となしに実のないものが漂っていた。
「いや、私は・・・」ゲオルグが濁しつつ笑った。
「何が問題だ?」
「温かい家庭には憧れますが、任務で移動が多いですし・・・それにこちらも・・・」
ゲオルグは指で金を表す仕草をしてみせた。
「妻子を持つと自由になりませんのでね。相手が資産家の令嬢でもあれば別ですが」
「なるほどな」
マティアスは笑みを浮かべたまま相槌を打った。