小説「光の物語」第165話 〜動乱 3 〜

小説「光の物語」第165話 〜動乱 3 〜

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動乱 3

姉レナーテの訃報にアルメリーアはふさぎ込み、ばあやはそんな彼女に付き添っている。
知らせを受けて数日経っても、アルメリーア悲嘆は尽きることがなかった。
母代わりのばあやに肩を抱かれて涙する。


「お父様とお母様も、もうご存じなのかしら・・・」
「ええ、おそらく・・・ブルゲンフェルトからお知らせが行っておりましょう」
ばあやも悲しげにため息をついた。
「両陛下もどんなにお嘆きか・・・おいたわしい・・・」
その言葉にアルメリーアは新たな切なさに襲われる。
二人とも姉の訃報をどう受け止めただろう?
今頃はどう過ごしているのだろうか・・・。


「・・・でも、姫様のご夫君がこちらの殿下でよろしゅうございました」
ハンカチで涙を拭う主人にばあやはそっと告げる。
「こういう時に妻の悲しみを見て見ぬ振りする殿方も多いというのに、王子殿下はいつも以上にお優しく・・・」
そう、アルメリーアもその点いくら感謝してもしきれない思いだった。
ここ数日の夫を思い返す。



姉の訃報を受けた日、ディアルはずっと彼女のそばで話を聞いてくれた。
彼女が泣いても取り乱してもひるまず、ただじっと側にいた。


「きみは姉上のことを知っていたの?ブルゲンフェルト王の愛人だと・・・」
寝台に並んで横たわり、ようやく少し落ち着いた彼女に彼は尋ねた。
「ええ・・・でも、きっと根も葉もない噂だと・・・」
泣き疲れて頭が回らないアルメリーアはぼんやりと答える。
レナーテに関する話はてんでばらばらで、確かなことは何一つわからなかった。


「それに違うと思いたかったの・・・まさか姉が愛人になんて・・・」
心のどこかでそれを恥じていたことに思い至る。
「姉の噂が事実なら、私やリーヴェニアの価値も下がってしまうように感じていたの。姉に申し訳ないわ・・・」
アルメリーアは自責の念に駆られて新たな涙を流した。


「話してくれればよかったのに」
「だって・・・あなたにそんなお話を聞かせてはご迷惑ですもの・・・」
「迷惑?」
彼は指先で彼女の顔に張り付いた髪を払う。
「あなたにはこの国の王子としてのお立場があるでしょう?いくら妻の姉でも関われないかと・・・」
その言葉にディアルはため息をついた。


「何でも解決できるわけではもちろんないが、話してくれなければ問題があることさえわからないじゃないか?」
小さく微笑みながら彼女の頬を撫でる。
「私はいつもきみに話を聞いてもらっているんだから、きみだって遠慮する必要なんかないんだ」
「でも・・・」


アルメリーアがそう考えたのは、故郷の父が家庭のもめごとを厭う人物だったためだ。
政務で頭がいっぱいの父は妻子に安らぎのみを求め、込み入った話を聞かされることを嫌った。
母が時おりそうした父の態度をなじると、父はうんざりしたようにその場を離れた。
そうして母が荒れている間は姿を表さず、ほとぼりが冷めたころに何事もなかったかのように戻ってくる。
それが父という人だった・・・そんな思いをぽつぽつと話す。


「・・・私は決していなくならないよ。だからそんな心配はしないで」
ディアルは腕の中にアルメリーアを抱き寄せ、赤子をあやすような優しさで彼女の背を叩いた。
「きみの問題は二人の問題だ。これからは一人で苦しまないでくれ」
アルメリーアは夫の心の深さに打たれ、彼の胸に身を寄せて泣きじゃくった。



それ以来ディアルは暇さえあればアルメリーアの元に戻り、彼女を慰め励ましてくれていた。
悲しみにくれるアルメリーアだが、夫の腕に包まれるたびその思いやりに心を癒された。
なにより、彼という人が夫であることを神に感謝する思いだった。
もしも父が彼のような人だったら、あるいは母も穏やかに過ごせたのだろうか・・・?


「妃殿下」
侍女の一人がアルメリーアとばあやのいる部屋をそっと訪れてきた。
小さな封筒を手にした彼女は明らかに困惑の表情を浮かべている。
「どうしたのです?」
まだ力の出ないアルメリーアに代わり、ばあやが侍女に尋ねた。
「あの・・・内密の使者がこの手紙を届けに参ったのです。姉君のレナーテ様からと・・・」