小説「光の物語」第54話 〜出奔 2〜

小説「光の物語」第54話 〜出奔 2〜

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出奔 2

「おい、驚くなよ」
マティアスはディアルの執務室に入るなりそう切り出した。
「何事だ?」
「ベーレンス伯爵だ。彼はどうやら妻子を見捨てることにしたらしい。領地の司教に婚姻無効を申し立てたそうだ」
「なんだって・・・?」
ディアルは呆気に取られた

 

マティアスの部下からの報告によると、年明け早々に王城から領地に戻ったベーレンス伯爵は婚姻無効のための調査を開始した。
そして、夫人と自身が遠い血縁関係であることを根拠にし、つい先日婚姻無効を申し立てたということだ。

 

「こじつけだな。今までなんの問題にもならなかったものを・・・」ディアルは読んだ報告書を机に放り投げた。
「だが、司教は許可する見通しらしいぞ。おそらくベーレンスが買収したんだろう」
「ばか者め」思わず吐き捨てる。「認められたとして、娘はどうなる?」
「たとえ両親の婚姻が無効になったとしても、嫡出子の地位に変わりはない。が・・・」
「なんだ?」
「申立書によると、ベーレンス夫人の実家は結婚の持参金を未払いのままにしていたらしい。よって、婚姻無効後の生活費やナターリエ嬢の婚姻費用はその負債をもってまかなうべしとある」
「つまり、ベーレンス伯爵は娘の将来などどうでもいいということか・・・」椅子の肘掛けを手のひらで叩いた。「情けないやつ」

 

「どうするんだ?」
「まずは父上に知らせねばな。それから・・・ベーレンス夫人はまだ何も知らないのか?」
「わからんな。誰かから内々に知らされているかも」
「それにしてもなぜ今になって?もう結婚して十何年もたつだろうに」
「さあ・・・新しい女でもできたか、それとも王城滞在中に間近で暮らしてつくづく嫌になったのかな。領地では別棟暮らしで、ほとんど夫人と顔を合わせることもなかったらしいから」


それも貴族の夫婦にはよくある話だが、だからこそ婚姻無効にまで踏み切るベーレンスに二人とも驚きを隠せなかった。