小説「光の物語」第89話 〜深雪 2 〜

小説「光の物語」第89話 〜深雪 2 〜

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第89話 〜深雪 2 〜

「そうね。ナターリエには気の利く女官がいりますわ」
ディアルから話を聞かされたアルメリーアはやりかけの刺繍をひざに置いて答えた。
「あの子は無防備ですものね・・・それにとても傷ついているし。もう辛い目にはあってほしくないわ」
「たしかに」
彼女が心安く相談でき、いざというときには機転をきかせてくれるものが適任だ。


「誰が良さそうかしら・・・アーベルのばあやとも相談して、ナターリエが王城に来るときは付き添わせましょう」
「ナターリエ嬢は修道院からここへ通うわけか?」
「少なくとも初めのうちは・・・。あの子にとってここは辛い思い出のある場所ですもの。亡き母君と過ごした・・・」
王城にいたころのナターリエはいつも母のベーレンス夫人に叱責され、悲しい思いをしていた。
そのベーレンス夫人が使っていた部屋もいまは空っぽだ。


「マティアス様はよく気の付かれる方だわ。申し分のない管理者ですわね」
アルメリーアはふたたび刺繍を取り上げて言う。
「自分以外の男を近寄らせないよう、お目付役がほしいのかもしれないぞ」
「まあ、そんなそぶりがおありに?」
「彼女のことを気にかけているようだし、そもそも未婚の令嬢に関わること自体が珍しいからね。ひょっとするかもしれない」
ディアルは顎をさすって笑みを浮かべた。
「だとしたら素敵ね。祝宴の時にダンスしているのを見たけれど、大型犬に子猫が守られてるみたいでとても可愛かったわ」
「なんという例えだ」
妻の言葉に彼は笑い出す。


「マティアスが彼女につけたいのはきっと、きみのばあやみたいな女官だろうな」
婚礼の前日にアルメリーアにキスしてしまい、こっぴどく怒られたことを思い出す。
「そうね、ばあやは不届き者には容赦しませんもの。たとえ相手が王子様でも」
同じことを思い出して彼女も微笑み、ディアルは「こいつ」と彼女を抱きしめる。
「危ないわ、針が」
笑いながら警告する妻を彼は引き寄せ、刺繍はころがって床に落ちた。