小説「光の物語」第92話 〜深雪 5 〜

小説「光の物語」第92話 〜深雪 5 〜

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深雪 5

ふたたび降誕祭の時期が巡ってきた。
冬の社交のために各地から諸侯たちが王城に集まってくる。
宮廷が一番華やぐ季節だ。


「この時期は各地の軍人たちも交代で休暇に入りますから、宮廷もますます賑やかになりますね」
この国での二度目の降誕祭を迎えるアルメリーアに向け、ばあやが口にする。
「そうね・・・きっと若者たちが大勢やって来るでしょうね」
考え深げにつぶやくアルメリーアにばあやは尋ねた。
「何かお気にかかることでも?」
「いいえ・・・ただ、砲兵隊もきっと休暇に入るでしょう?あのゲオルグがもしかして・・・」
王城に現れ、ナターリエに再び近づいたりはしないか?
あるいは他の令嬢方に・・・。


「彼はノイラート隊長の従者でございますから、降誕祭には主人と郷里に戻りましょう」
「そうですわ。彼にも親族がおりましょうし」
周りの女官たちはアルメリーアの心配を軽くしようとする。
「それもそうね。ノイラート隊長は良き夫、良き父だという噂だし・・・」
そのことを思い出したアルメリーアは少しほっとする。
「ええ。ゲオルグが王城に来るのは、ノイラート隊長のご用がある時だけですわ、きっと」
女官たちの取りなしでアルメリーアも気を取り直した。


「クリスティーネが結婚して王城を出たからか、なんだか寂しくなってしまったわね。サロンの令嬢方はどんな様子?」
「そうですわね。常連の皆様もいらっしゃいますが、今年から社交界に出る方々もおられますし・・・」
「新たな組み合わせでお相手探しが始まるのね」
アルメリーアは小さく笑みを浮かべる。


「ゲオルグの例を繰り返さないよう、令嬢方にできるだけ配慮したいわ。でも・・・」
浮き足だつ若者たちに目を光らせ続けるなど不可能だし、進む話も進まなくなってしまう。
「よくない噂の人物は誰か、多少なりと把握しておけないかしら?」
アルメリーアの言葉に女官が答える。
「それならば可能でございましょう。使用人の中にも詳しいものがいそうですし」
「わたくし達でそれとなく探ってまいりますわ」
頼もしい女官たちの言葉にアルメリーアは頷いた。


「なんだか怖い話が聞こえるな」
アルメリーアたちのいる部屋にふいにディアルが入ってきた。
「まあ、殿下・・・」
女官たちは王子の急な出現に驚いて立ち上がる。
「政務が一段落したから寄ってみたんだが、邪魔かな」
「またそんなことおっしゃって」
笑顔で女性陣をからかうディアルにアルメリーアは微笑んだ。
彼がいるところはいつでも明るいように感じられる。


女官たちは下がり、ディアルはアルメリーアの隣に座って彼女の肩を抱いた。
「ドアが開いてたから少しばかり聞こえたんだが、不埒者のリストを作るって?」
その言い方にアルメリーアも苦笑する。
「気休めにもならないかもしれませんけど・・・前もって気をつけられるならと」
誘惑者は次から次へと現れるであろうし、すべてを調べるのは無理な話だ。
せめて噂のある者だけでも未然にわかればという思いだった。


「恋愛ごっこは社交界の遊びではあるからな。あまり締めつけるのも何だが・・・」
「ええ。互いに遊びと心得ているならば。でも・・・」
ゲオルグの件は明らかに一線を超えていたし、再発させたくないことだ。
アルメリーアは頭を夫の肩にもたせかけた。


「令嬢たちの今後のためにもできるだけのことはね・・・宮廷の女主人としては」
「頼もしいな」妻の頬を手のひらで包む。「皆のばあやになって、不届き者を一喝するつもり?」
「ええ、必要なら」くすりと笑う。「できれば皆に幸せになってほしいもの。私と同じくらい」
「そう来られては反論のしようもないな」
ディアルは笑って彼女の額に唇をつける。


「まあ、悩み事を増やさない程度にしておいで。ばあやになるには少々若すぎるようだしね」
つややかな肌を指先でなぞられ、彼女はそっと目を閉じた。