小説「光の物語」第15話 〜王城 1〜

小説「光の物語」第15話 〜王城 1〜

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王城 1

「エルガへの出動、大義であった」
ディアルの父である国王、グスタフが息子をねぎらう。
ディアルとアルメリーアが旅から戻ってまもなく、隣国ヴェルーニャとの国境近くで小競り合いが持ち上がった。
軍人でもあるディアルは兵を率いて出動し、国境近くの都市エルガで指揮に臨むことになったのだ。
事態はほどなく鎮静化したものの、今後も警戒は怠れない。
ディアルはその報告に父王を訪れていた。


「そなたも知っての通り、我が国は気候が厳しく、農地も少ない。国土の半分は山ばかりで、しかも山岳育ちの兵は精鋭そろい。
征服するうまみは少ないはずだ・・・が、それでも触手を伸ばしてくるものはいる」
「はい」ディアルは幼い頃から聞かされていた父の言葉に頷いた。


「周辺を囲む国々を野心に駆らせぬよう、火の粉は払わねばならん。そして、そなたの妃の故郷であるリーヴェニアとの同盟はより堅固に」


ディアルの国ローゼンベルクとアルメリーアの国リーヴェニアとは、険しい山岳地帯を国境をへだてて分け合う位置関係にあり、その他の条件も似通っていた。


「リーヴェニアが他国と結び、山の国境側から侵攻されてはどうしようもない。山は常に我らの守りであり続けねば」
「我が国とリーヴェニアはコインの裏と表。あちらにとっても山が守りの要であることに変わりはありますまい」
「まあ、な・・・」
しごくもっともな息子の言葉にも、悩み多き国王はたやすく同意はできない様子だ。


「リーヴェニア王が王女を私に嫁がせたのもそれが理由でしょう」
ディアルがアルメリーアとの婚姻は、両国にとって山の国境を守るための保障でもあった。
「ああ。だがリーヴェニア王には子が多いゆえな。他国と結びつくのもそれだけ容易だ」
リーヴェニア王エルンストには2人の息子と5人の娘がおり、アルメリーアの四人の姉たちは各国の名家へと嫁いでいた。


「私のただ一人の息子よ、妃と睦まじくあれ。言うまでもないことだが」
「父上、ご心配にはおよびません。私には父上と母上というよき手本がありましたゆえ」
王は髭をたくわえた口元をゆるませた。「きいた風なことを」


父グスタフ王と亡き母ヘレーネ王妃もまた仲の良い夫婦であり、よく二人で馬を並べて森へ狩猟に出かけていた。
母亡き後、父が再婚しないのも彼女の思い出のためであろう。
もちろん、他にも理由は山ほどあるだろうが。


「新婚早々城を空け、王子妃もさぞ寂しがっていたであろう。早く顔を見せてやるがよい」
父王の言葉にディアルは一礼し、国王の執務室を辞した。