小説「光の物語」第163話 〜動乱 1 〜

小説「光の物語」第163話 〜動乱 1 〜

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動乱 1

隣国ブルゲンフェルトからさらなる悪報が届いた。
前王太子の支持者たちが結束して武装蜂起し、とうとう王宮内部になだれ込んだのだ。
一時は反対派に幽閉された国王一家だったが、密かに脱出して都のはずれの堅固な離宮へと逃れた。
しかしその報復に、王宮に残された取り巻きの多くは暴徒の手で虐殺されたという。
国王の親族や重臣たち、その家族、使用人たち・・・。


「ブルゲンフェルト王一家の安全は?」
国王グスタフの問いに、急報を携えてきた使者は答える。
「今のところ軍は王に忠実です。しかし今後はどうなることか・・・」
隣国王一家は離宮に立てこもり、軍はその離宮を守っている。
だが前王太子の支持者たちは王に退位を迫っており、成り行き次第で軍もそちらに寝返るかもしれなかった。


「これは・・・いよいよブルゲンフェルト王の命運も・・・」
「隣国だけの争いで済みましょうか」
「抑えを失った軍隊が我が国にまで押し寄せるやも・・・」
知らせを聞いた重臣たちは喧々諤々とする。


国王はそんな彼らを静め、国境の守りをさらに固める方策を協議する。
緊張を増すばかりの情勢に立ち向かうべく、会議は紛糾したものとなった。


「殿下」
そんな中、先ほどの使者がそっとディアルに近づき声をかける。
内密の知らせがあるらしい。
察したディアルは小さく頷き、使者を伴って別室へと移動した。



「まあ、ディアル様」
外出から戻ったアルメリーアは、居間の長椅子にかける夫の姿に笑顔を見せる。
彼女は公務で王都にある病院をいくつか慰問してきたところだった。
戦となれば救護所が多数必要になるため、その激励もかねた訪問だ。


「よく戻ったね。疲れただろう」
「少し・・・でも、あなたのお顔を見たら治ってしまったわ」
ディアルはそんな彼女に微笑み返すが、その表情にはどこか翳りがある。
アルメリーアも夫の様子に気付き、気遣わしげに顔を曇らせた。「何かありましたの?」


ディアルは立ち上がって妻を腕の中に引き寄せ、固い表情で彼女の顔を覗き込んだ。
「ディアル様・・・?」


「リーア、落ち着いて聞いてくれ・・・ブルゲンフェルトから悪い知らせが届いたんだ」
夫の言葉に彼女ははっと体をこわばらせた。
「暴徒が王宮に押し寄せてブルゲンフェルト国王を捕らえた。国王一家はその後脱出したが、王宮に残った者の多くは反対派に捕らえられ、命を落とした」
目を見開く彼女の頬にディアルはそっと触れる。
こんな話を彼女に聞かせたくはないが、しかし知らせぬわけにもいかないのだ。
「きみの姉上・・・かの国に嫁いだレナーテ王女も、そのうちの一人らしい」
アルメリーアは声にならない叫びをあげる。


「そんな・・・嘘・・・」
泣き出しそうな顔の彼女をディアルは痛ましげに見つめる。
「・・・なぜそんなことに・・・どうして姉が・・・」
「どうやら、姉上はブルゲンフェルト国王の愛人だったらしい・・・それが理由だろう。他の愛人や庶子たちも何人か犠牲になったそうだ」
中には幼い子供も混ざっていたという。
なんたる非道かとディアルは憤るが、それは今のアルメリーアに伝えるべきことではない。


アルメリーアはそれ以上なにかを聞くことはできなかった。
衝撃のあまり意識が遠のいていき、彼女の名を呼ぶ夫の腕の中で倒れ込んだ。