小説「光の物語」第31話 〜降誕祭 8〜

小説「光の物語」第31話 〜降誕祭 8〜

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降誕祭 8

「気は揉まされるが、恋に憧れるのは罪ではありません。彼女が正しい相手に出会うことを願いますよ」
自分とは別世界の話をするかのようなマティアスに、アルメリーアは切なくなった。彼はディアルといくつも変わらないというのに。
「マティアス様もきっと、またふさわしい方に出会われますわ」
彼女の言葉でマティアスはなにかに気づいたようだ。


「殿下からなにかお聞きになりましたか」
尋ねる彼はいつも通りの笑顔だが、アルメリーアは少しばつの悪さを感じた。
「昔お好きな方がいらしたと・・・」
控えめに答えると、マティアスは仕方ないなというような顔をした。


「ご心配にはおよびません。こう見えても貴婦人方に不人気ではありませんし、それなりに楽しく過ごしているのですよ」
「ええ、でも・・・もっといいものもご存じのはずですもの」
マティアスの表情に少しだけ翳りが見えた。


「・・・昔のことですよ。何も知らない子供の頃の話です」
ふだん気楽そうに振る舞っているマティアスの別の顔を見た気がし、アルメリーアはもう少し踏み込んでみる気になった。
「彼女はどんな方でしたの?」


いつもならはぐらかすだろう問いだったが、この時マティアスはなぜか答える気になった。
「とても・・・繊細な人でした。優しくて、夢見がちで・・・」
遠い過去に思いを馳せるマティアスからはいつもの皮肉っぽい様子が失せていた。
「まわりの思惑に翻弄されて、彼女の心身は耐えられなかったのです。私と関わりさえしなければ・・・」


「そんなふうにお思いにならないで・・・」
泣き出さんばかりに心を痛めるアルメリーアを見て、マティアスはふといつもの笑みを取り戻した。
「お気をつけください、妃殿下。あわれな昔話で同情を引くのは誘惑者の常套手段ですよ」


「誘惑者」という言葉にアルメリーアは我にかえった。未婚の娘を誘惑し、身籠らせて姿を消したという・・・さっき見た男がそうなのだろうか。
「さきほどの青年の名をご存じ?」


マティアスは彼女の雰囲気が現実的なものに変わったのを感じた。
「ローエ家のトーマスです。普段は第二小隊に所属していますが、そこでの噂もあまり芳しからぬようで」一旦言葉を切って続けた。「しかし、似たような輩は他にいくらでもいます。恋愛遊戯は社交界の娯楽ですからね」
「ええ。でも、未婚の娘たちにとっては・・・」
アルメリーアのつぶやきにマティアスも小さくうなずいた。