深雪 4
ナターリエの女官としてアーベルの遠縁がつくことになった。
以前は宮廷に仕えていたのだが、結婚のため職を辞した女性だ。
その後病で夫を亡くし、子供もいないことから再度宮仕えに出ることにしたのだった。
「テレーザと申します。以後よろしくお願いいたします」
自分付きの女官として紹介された、その長身の女性にナターリエは好感を抱いた。
とても賢く冷静そうだが、何か楽しげなものを感じさせる。
「どうぞよろしくね。アーベル様のご親戚の方なら心強いわ」
ナターリエの言葉にテレーザはにっこりと微笑んだ。
ナターリエはひとまず修道院に住み続け、テレーザも彼女の隣の部屋を使うことになった。
この措置はアルメリーアとアーベルが相談して決めたものだ。
ナターリエには彼女なりの鑑識眼と処世術を養ってほしい。
それができれば辛い目に合うことも避けられるし、夫選びにも役に立つ。
そのための指南役も兼ね、二人はテレーザを選んだ。
宮廷に長く仕えて跋扈する者たちを見てきたテレーザは、その役割にうってつけだからだ。
とはいえ、まずはナターリエが心を開いてくれなければ始まらない。
テレーザは新たな主人の話を聞き、彼女の性質を学ぼうとした。
ほどなくナターリエの無防備な思いやりを理解し、守ってあげたいという気持ちになる。
それにしても、本来なら貴族の令嬢には子供の頃からの側近がいるものなのだが・・・。
不思議に思ったテレーザはふとした折にそのことを尋ねた。
「以前はいたのだけれど、みないろんな事情で辞めてしまったの・・・」
窓際の椅子で本を読んでいたナターリエはページを開いたまま、少し沈んだ様子で答えた。
「他の令嬢方が側近の侍女たちといるのを、いつも羨ましいと思っていたわ」
と、小さな微笑を浮かべる。
アーベルから大体の事情を聞いていたテレーザは察した。
ナターリエの両親はおそろしく厳しい人たちだったという。
おそらくそれが原因で人がすぐに辞めてしまったのだろう。
娘であるナターリエはそうとは言うまいが・・・。
「今後は及ばずながらお役に立てるよう務めますわ」
テレーザはそう伝え、ナターリエはためらいがちな笑みで答えた。